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連邦政府が使う金は、国全体の1割ちょっと——UAEは世界で最も分権的な国家財政を持っている

IMFの評価では、UAEの財政は世界で最も分権化されている。連邦政府の支出は公的支出全体の1割強。首長国それぞれが独自の財布を持つ国で、暮らしの手続きが首長国ごとに違う理由。

2026-10-12
政治財政制度UAE

この記事の日本円換算は、1AED≒44円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AED)の金額を基準にしてください。

UAEに住んでいると、手続きがやたら首長国ごとに違うことに気づきます。運転免許の扱い、賃貸契約の登録方法、学校の監督官庁、道路の料金体系。ドバイでできたことがアブダビでは通らない、シャルジャはまた別、ということが日常的に起こります。

これは行政の非効率ではありません。国家の設計そのものです。

IMFの分析によれば、UAEは世界で最も分権化された政府財政のシステムを持っています。連邦政府の支出は、国内の公的支出全体の11.5%程度。残りの9割近くは、7つの首長国がそれぞれ自分の判断で使っています。

「連邦」という言葉の実質

多くの連邦国家では、中央政府が国家財政の主要な部分を握り、地方政府に配分します。米国でも日本の中央地方関係でも、税を集める主体と配る主体が中央にあります。

UAEはこの向きが逆です。

連邦予算の収入のうち、約4分の3は連邦の各機関が自ら生み出す収入で、残りをアブダビとドバイが「合意された額」として拠出しています。2025年度の連邦予算では、この両首長国の拠出(現金と役務の合計)が約146億AEDと見積もられています。

拠出しているのは、実質的にこの2つの首長国だけです。他の5首長国は連邦の財源に貢献するのではなく、連邦のサービスを受ける側にあります。

さらに、国防と安全保障の支出は連邦の責任範囲でありながら、その費用を実際に負担・管理しているのはアブダビだとされています。

つまりUAEの連邦政府は、加盟する首長国から拠出金を受けて運営される組織です。構造としては、国というより共同出資会社に近い。

石油が偏在しているという前提

なぜこうなったのか。答えは地質学にあります。

UAEの石油埋蔵量の圧倒的な部分はアブダビにあります。ドバイの石油は早い段階で枯渇に向かい、だからこそ貿易と観光へ舵を切るしかなかった。北部の首長国には、そもそも大きな油田がありません。

1971年の建国時、この偏りをどう扱うかが最大の論点でした。石油収入を連邦の共有財産にして再分配するのか、それぞれの首長国の資産として残すのか。

選ばれたのは後者でした。各首長国が自らの天然資源と、そこから生じる収入を保持する。連邦は共通の機能——外交、国防、通貨、移民管理など——を担うが、経済の主体は首長国のままにする。

これは妥協ではなく、連邦が成立するための条件だったと考えられます。資源を共有財産にする案を受け入れられる首長国と、受け入れられない首長国があった。後者の同意がなければ連邦そのものが成り立たなかった。

結果として、UAEは建国から一貫して「弱い中央と強い地方」の構成を維持しています。合意形成を重視する統治スタイルは、この構造の上でこそ機能します。強制する権限が中央にないなら、合意を作る技術が必要になります。

分権が生活に現れる場面

この設計が、在住者の日常に具体的な形で顔を出します。

教育。私立学校の監督と授業料規制は、首長国ごとに別の当局が行います。ドバイはKHDA、アブダビはADEK。授業料の上限設定の考え方も運用も違うため、「UAEの学費」という言い方はあまり意味を持ちません。首長国別に学費の構造を見る必要があります。

道路と交通。ドバイのSalikとアブダビのDarbは、それぞれ別の首長国が運営する別の料金システムです。料金体系も課金の考え方も違う。首長国をまたいで通勤する人は、両方の制度に登録することになります。

不動産と賃貸。賃貸契約の登録制度、家賃上昇の上限規定、不動産取引の手数料。すべて首長国ごとです。ドバイの家賃指標を見てシャルジャの相場を判断すると外れます。

公共料金。電力・水道の事業者と料金体系が首長国ごとに異なります。補助の入り方も一律ではありません。

居住の選択。シャルジャやアジュマーンの家賃が安い理由の一部は、この分権構造にあります。首長国が独立した財政と政策を持つので、規制や税負担、開発の優先順位が違う。結果として、数十キロ離れただけで生活コストが大きく変わります。

フリーゾーンは第三層

さらにもう一段の分権があります。フリーゾーンです。

フリーゾーンは首長国の内部にあって、独自の法制度と登記所を持つ区画です。会社法、雇用規則、紛争解決の仕組みが、首長国の本土(mainland)とは別に設計されています。

つまりUAEには、連邦法、首長国法、フリーゾーン法という三層が併存しています。どの層のルールが自分に適用されるかは、会社の登記場所とビザの発給元で決まります。

同じドバイで働いている二人が、まったく違う労働法の下にいることがある。これは例外ではなく、通常の状態です。

効率と多様性のトレードオフ

分権には明確なコストがあります。

制度が重複する。手続きが統一されない。首長国をまたぐ移動に摩擦が生じる。データが統合されず、統計の比較が難しい。

一方で、利点もあります。首長国ごとに違う戦略を試せる。ドバイが観光と物流に賭け、アブダビが政府系ファンドを通じた資産運用と産業投資に賭け、シャルジャが文化と教育に軸足を置く。一つの国のなかで並行して複数の実験が走っている状態です。

生態学でいう多様性と冗長性の関係に近いかもしれません。すべてを一つの最適解に揃えた系は効率が高い一方、環境が変わると全体が同時に失敗します。異なる戦略が併存する系は非効率だが、どれか一つが失敗しても全体は生き残る。

UAEが50年かけて維持してきたのは、統一を急がない設計でした。在住者から見れば手続きが煩雑だという不満に変換されるのですが、その煩雑さは、この国が一つの解に賭けなかったことの記録でもあるという見方も、できなくはないと思います。

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