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タクシーの運転手も、警備員も、ほぼ同じ国の人だ——UAEで職業と国籍が対応する構造

UAEでは職種ごとに出身国が驚くほど偏る。差別的な割り当てではなく、送り出し国のネットワークが作った経路依存の結果として読み解く。

2026-09-03
労働社会構造移民UAE

この記事の日本円換算は、1AED≒44円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AED)の金額を基準にしてください。

UAEでしばらく暮らすと、ある規則性に気づきます。タクシーの運転手に多い出身国、住宅の警備員に多い出身国、美容室のスタッフに多い出身国、金融機関の窓口に多い出身国。職種ごとに、出身地が驚くほど偏っています。

これは誰かが「この仕事はこの国の人」と決めた結果ではありません。偏りは、もっと自動的な仕組みから生まれています。経済学が「経路依存」と呼ぶ現象が、労働市場の上で起きているのです。

最初の一人が経路を作る

ある職種に、たまたま特定の国の出身者が数人採用されたとします。彼らは仕事に慣れ、雇用主の信頼を得る。そして雇用主が次の人を採るとき、いちばん確実な方法は既存の社員に「誰か紹介してくれないか」と聞くことです。

紹介されるのは同郷の友人や親戚です。同じ言語が通じ、事前に仕事内容を説明してもらえて、住む場所も先輩と共有できる。雇用主にとっては採用コストが下がり、働き手にとっては渡航のリスクが下がる。双方に得があるので、この経路が繰り返し使われます。

この「住む場所も共有できる」という部分は、想像より具体的です。同じ会社の同じ職種の人が、同じ住居に何人も寝起きしている。夕方に会社のバスが同じ建物の前に停まり、同じ言語で話しながら降りてくる。職場の偏りは、居住区の偏りとセットで維持されています。人口の大半が外国籍というこの国の構成は、均一に混ざっているのではなく、経路ごとに層が分かれている。

数年後、その職種はほぼその国の出身者で埋まっています。最初の数人という偶然が、構造として固定される。生態学で言えば、最初に定着した種が生息域を占める過程に似ています。

送り出し側にも産業がある

もう一つの層は、送り出し国側の仕組みです。海外就労は、多くの国で一つの産業になっています。人材斡旋業者、渡航前の研修、渡航費の貸付。特定の国と特定の職種の間に、専用のパイプが敷かれている。

たとえばある国では建設や運転手の斡旋が、別の国では家事労働や看護の斡旋が発達している、といった具合に、送り出し側の得意分野が形成されます。UAEの職業別の国籍分布は、UAE側の需要と送り出し側の産業構造の掛け算として現れる。

言語も経路を強化する

現場の作業言語も、偏りを強めます。建設現場で指示が特定の言語で飛び交うようになると、その言語を話せない人は入りにくくなります。逆に話せる人にとっては参入が容易になる。

言語が壁として機能するとき、それは同時に、同じ言語圏の人々にとっての橋にもなります。壁と橋は同じものの裏表です。

給与も国籍で分かれてしまう

厄介なのは、職種が国籍で分かれると、給与も国籍で分かれて見えてしまう点です。UAEでは、同じ会社の中に、桁の違う待遇の層が同居しています。

これは能力差だけでは説明できません。どの経路でこの国に来たか、どの契約形態で雇われているか、本国での賃金水準がいくらか。そうした要因が、賃金の初期値を決めてしまいます。市場が公正に評価した結果というより、複数の労働市場が一つの国の中に併存している状態に近い。

その差は、給料日の直後に街で目に見える形になります。両替所に行列ができ、稼いだお金の相当部分が本国へ流れていく。何のためにこの国にいるのかが、職種ごとにまるで違う。同じオフィスビルに入っていく人たちが、まったく別の目的関数で動いています。

日本人はどこに位置するのか

日本人在住者の多くは、駐在員か、専門職か、自営です。この構造の中では、比較的高い待遇の層に置かれることが多い。それは個人の能力の証明というより、どの経路でここに来たかの結果です。

この事実を直視するかどうかで、UAEでの暮らし方は変わります。自分の待遇を当然のものとして受け取るのか、複数の労働市場が重なった場所にいると理解するのか。後者の見方をすると、警備員に会釈する動作の意味も、少し変わってきます。

同じ建物の中に何層もの待遇が同居している状態は、この国の労働構造を語るときに避けて通れない論点です。快適な生活は、誰かの労働の上に成立しています。

固定されつつ、動いてもいる

とはいえ、この構造は完全に固定されているわけではありません。UAEでは自国民の雇用促進政策が進み、専門職の国籍分布も年々変化しています。テクノロジー分野では、出身国の分布が従来の職種ほど偏っていない領域も出てきています。

経路依存は強力ですが、永久ではありません。新しい産業が生まれるたびに、まだ誰も踏んでいない経路が現れる。UAEの労働市場の面白さは、古い経路と新しい経路が同時に走っているところにあります。

一度、意識して見てみる

明日、タクシーに乗ったら、運転手にどこから来たのか聞いてみる。オフィスの警備員にも聞いてみる。同じ答えが返ってくる確率が高いはずです。

その偏りは、偶然と経済合理性が数十年かけて積み上げた模様です。ランダムに見えて、実は履歴が刻まれている。UAEという国を読むとき、この模様は最も正直な地図の一つになります。

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