砂漠の国が水に弱い——雨がほとんど降らない都市が浸水する理由
UAEでは短時間の豪雨で道路が冠水することがある。降水量が少ない土地ほど水に弱いという逆説を、都市設計とインフラ投資の判断から読み解く。
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UAEで大雨が降ると、道路が池になります。地下駐車場に水が入り、車が立ち往生し、学校が休みになる。日本の感覚では「その程度の雨で?」と思うような降り方でも、街が止まることがあります。
これは技術力の問題ではありません。雨がほとんど降らない土地は、構造的に雨に弱くなる。その理由には、地面の性質と、投資判断の合理性の両方が関わっています。
乾いた地面は水を吸わない
直感に反しますが、長く乾燥した土壌は、水を素早く吸い込みません。表面が固く締まり、水を弾く状態になることがあります。
さらにUAEの都市部は、アスファルトとコンクリートで覆われています。もともと吸収力の低い土地を、さらに不透水面で覆っている。降った水は、行き場を求めて低いところへ集まるしかありません。
日本の都市が水に強いのは、周囲に水を受け止める土地と、長年整備された排水網があるからです。UAEには、その両方の前提が薄い。
そもそもこの国の水は、空から来るものとして設計されていません。生活用水の主力は海水を淡水に変える設備で、水は買うものであり、作るものです。降ってくる水を受け止める発想が、都市の設計思想の中心にない。
排水網への投資は「割に合わない」
都市計画の観点から見ると、UAEが大規模な雨水排水網を優先してこなかったのは、経済的には理解できる判断です。
年間で数えるほどしか使わない設備に、莫大な費用をかけるか。同じ予算を、道路、空調、淡水化、住宅に回すか。降水確率の低さを前提にすれば、後者が合理的に見えます。保険と同じで、めったに起きない事象への備えは、常に過小投資になりやすい。
「めったに起きない」の頻度が変わると
問題は、その前提が変わる可能性があることです。極端な降雨が増える傾向は、世界の多くの地域で議論されています。乾燥地域も例外ではありません。
年に一度も使わない設備が、数年に一度必要になるなら、投資の計算は変わります。UAEでは近年、雨水インフラの強化が政策課題として取り上げられるようになりました。前提が変われば、合理的な答えも変わる。
運転が最も危険になる
在住者にとって、雨の日の最大のリスクは運転です。理由は二つあります。
一つは、道路表面に溜まった砂や油分が、久しぶりの雨で浮き上がり、極端に滑りやすくなること。数か月ぶんの砂と油が一気に水と混ざるので、最初の30分がいちばん滑ります。
もう一つは、多くのドライバーが雨天の運転に慣れていないことです。普段から速度が高く車線変更の多い道路で、乾いた路面のままの車間距離と速度が持ち込まれる。路面が変わっても、運転の癖は変わらない。
雨の日は、外出そのものを見送る。これが在住者の間で最もよく共有されている判断です。冠水した道に進入すると、車が動けなくなるだけでなく、エンジンに水が入って修理不能になることがあります。
建物の側の弱点
住居についても、雨は弱点を露呈させます。長年雨に触れていない屋根やベランダの防水は、劣化に気づかれないまま放置されがちです。
窓枠のシーリング、エアコンの配管まわり、屋上の排水口。乾燥した気候ではこれらの不備が表面化しないため、大雨のときに初めて漏水として現れます。入居時にこの点を確認しておくと、被害を減らせます。
保険の対象になるかを確認する
車の保険では、水没が補償対象かどうかがプランによって分かれることがあります。住居の家財についても同様です。
雨の少ない国では、この項目を意識せずに契約している人が多い。契約書の該当箇所を一度読んでおくと、実際に降ったときの選択肢が変わります。冠水した道に入るかどうかの判断が、保険の内容で変わることさえあります。
9月はまだ乾いている
UAEでまとまった雨が降るのは、多くの場合涼しい季節です。9月はまだ乾いた月で、雨の話が実感を伴いにくい時期でもあります。
だからこそ、この時期に準備をしておく意味があります。ベランダの排水口の詰まりを見る。保険の内容を確認する。地下駐車場の位置と、雨のとき車をどこに移すかを決めておく。備えは、必要になってからでは間に合いません。
弱点は、成功の裏側にある
UAEは、暑さに対しては世界最高水準の対策を積み上げてきました。空調も、断熱も、都市の動線も、高温を前提に最適化されています。
一つの条件に特化した最適化は、その条件から外れた事象に弱くなります。生物の進化でも、特定の環境に適応しすぎた種が、環境の変化で脆くなることが知られています。砂漠の都市が水に弱いのは、失敗ではなく、適応の副作用として読めます。
同じことは、外壁を白く塗るという選択にも言えます。熱に対しては正しい答えで、水に対しては何も答えていない。最適化とは、何かを諦めることでもあります。