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交通・インフラ

ドバイで最も安い交通手段は、100年前と同じ木造船だ

ドバイ・クリークを渡るアブラ(渡し船)は1回1AED(約42円)。メトロもモノレールもある都市で、なぜ木造船が現役なのか。ドバイの原風景と近代化の接点を読む。

2026-05-07
UAEドバイアブラ交通文化

この記事の日本円換算は、1AED≒42円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AED)の金額を基準にしてください。

ドバイのメトロは全自動無人運転。モノレールがパーム・ジュメイラを走る。タクシーアプリは3分で車が来る。

その同じ都市で、最も利用者が多い「水上交通」は、木造のモーターボートだ。乗り場はクリーク(入江)の両岸にあり、料金は1AED(約42円)。20人ほどが座れる船体に乗客が集まり次第、対岸まで約5分で渡る。時刻表はない。人が集まれば出る。

これが「アブラ(Abra)」だ。

クリークという原点

ドバイ・クリークは、天然の入江だ。全長約14km。この水路がドバイの歴史の出発点であり、都市の南北を分ける境界線でもある。

クリークの北側がデイラ(Deira)地区。ゴールドスーク、スパイススーク、電子機器の卸売市場がある商業エリアで、インド人・パキスタン人の商人が多い。南側がバール・ドバイ(Bur Dubai)地区。旧市街のアルファヒーディ歴史地区、テキスタイルスーク、アブラの発着所がある。

1960年代に石油が発見される前のドバイは、このクリーク沿いの交易で成り立つ小さな港町だった。真珠採取とインド・アフリカとの中継貿易。アブラはその時代の交通手段であり、クリークを挟んだ二つの地区をつなぐ唯一の足だった。

1AEDの経済学

アブラの運賃が1AED(約42円)で維持されているのは、政府の補助があるからだ。RTA(Roads and Transport Authority、道路交通局)がアブラの運航を管轄し、料金を低く設定している。

年間の利用者数は約1,500万人(RTAの発表ベース)。ドバイの人口が約360万人であることを考えると、1人あたり年4回以上乗っている計算だ。通勤に使う地元住民と、観光客が混在している。

アブラには「オールドアブラ」と「ニューアブラ」がある。オールドアブラが伝統的な木造船(1AED)、ニューアブラがエアコン付きの近代的な船(2AED)。観光客はニューアブラに乗りがちだが、地元民はオールドアブラを選ぶ。1AEDの差額は、毎日乗る人にとっては年間700AED以上の差になる。

乗り方

乗り方は単純だ。

クリーク沿いのアブラ乗り場(Abra Station)に行く。デイラ側とバール・ドバイ側にそれぞれ複数の乗り場がある。待っている船に乗り込み、座る。1AEDを船頭に直接渡す(現金のみ。NOLカード対応の船もあるが、現金が確実)。人が集まったら出発。約5分でクリークを横断する。

朝5時から深夜0時まで運航。ピーク時は数分間隔で出発する。待ち時間は長くても5〜10分。

注意点: 日中のクリークは直射日光が強い。帽子と水は持参する方がいい。また、船が揺れるので立ち上がらない。

クリーク沿いの風景

アブラに乗ると、ドバイの二つの時間軸が同時に見える。

一方にはアルファヒーディの風塔(バルジール)——エアコンがない時代の自然換気装置を備えた伝統建築が並ぶ。もう一方にはデイラの高層ビル群がそびえる。水面には大型の木造ダウ船(ダウ船はアラビア半島の伝統的な帆船)が停泊しており、今もイラン、インド、アフリカとの交易に使われている。

夕暮れ時のアブラは特に印象的だ。西日に照らされたクリークの水面がオレンジに染まり、対岸のモスクからアザーン(礼拝の呼びかけ)が聞こえる。42円で体験できる風景としては、世界でもトップクラスだ。

在住日本人のアブラ活用

ドバイに住む日本人がアブラに乗る場面は、意外と多い。

ゴールドスークで金のアクセサリーを見に行くとき、スパイススークでサフランを買うとき、アルファヒーディ歴史地区のカフェに行くとき——デイラとバール・ドバイの間を移動する手段としてアブラは実用的だ。車だとクリークを迂回する必要があり、渋滞に巻き込まれると30分以上かかることもある。アブラなら5分。

ドバイの「新しさ」に慣れた後で乗るアブラは、この都市が何の上に建っているのかを思い出させてくれる。超高層ビルとAI技術と無人運転の裏側に、木造船と現金払いの世界がまだ動いている。


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