ドバイの電気代の半分はエアコンに消えている——冷房が設計した都市
UAEの電力消費の約70%は冷房が占めるとされる。気温50度の砂漠で都市を維持するエアコンの構造、電気代の実態、そして冷房が生んだ独特の都市設計を読み解く。
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ドバイに着いた日本人が最初に感じるのは、暑さではない。寒さだ。
空港のターミナルが18度。ホテルのロビーが20度。ショッピングモールが19度。外は45度なのに、屋内は日本の冬のような温度に設定されている。上着を持っていない日本人が、モールで震えている。
UAEの冷房は「快適にする」を超えて「過剰に冷やす」領域に入っている。この過剰さには構造的な理由がある。
電力の70%が冷房に使われる
UAE全体の電力消費のうち、冷房が占める割合は推定60〜70%とされる(アブダビのMasdar Instituteの研究報告等)。ドバイに限ると、夏場のピーク時は80%近くに達するという推計もある。
1世帯あたりの電気代は夏場に月1,000〜2,500AED(約42,000〜105,000円)に跳ね上がる。冬場(11月〜3月)は300〜600AED(約12,600〜25,200円)程度なので、3〜4倍の差がある。
ドバイの電力会社DEWA(Dubai Electricity and Water Authority)は「スラブ制」と呼ばれる累進課金を採用しており、使用量が増えるほど単価が上がる。冷房を節約しないと電気代が加速度的に膨らむ仕組みだ。
冷房が設計した建築
UAEの建築は、冷房を前提に設計されている。ガラス張りのカーテンウォールが主流だが、これは断熱性能の観点からは最悪の選択だ。ガラスは直射日光を通し、室内温度を上げる。しかし見た目の高級感と近代性のために、ガラス張りが選ばれ続けている。
その結果、巨大なエアコンシステムが建物の設備コストの30〜40%を占める。バージ・カリファの冷房システムは、毎日約46,000トンの氷を溶かすのと同等の冷却能力を持つとされる。
一方で、アブダビのMasdar City(マスダールシティ)のように、伝統的なアラビア建築の知恵(風の塔、中庭型レイアウト、日射遮蔽)を現代建築に取り入れる実験も始まっている。エアコンなしで室内温度を外気より10度以上下げる設計だ。ただしこれはまだ実験段階であり、ドバイの主流建築が変わる兆しは見えない。
「外を歩かない都市」の論理
ドバイが歩行者に冷たい——物理的な意味で暑すぎて歩けない——ことは有名だが、実はドバイは「外を歩かなくても生活が完結する」ように設計されている。
マンションの駐車場から冷房つきの車に乗る。冷房つきのオフィスビルの地下駐車場に停める。エレベーターでオフィスへ。ランチはビル内の飲食店。退勤後は冷房つきの車でショッピングモールの地下駐車場へ。モール内で買い物、食事、映画。帰宅。
外気に触れる時間はドアからドアまでの数十秒。冷房なしの環境にいる時間は1日で合計5分以下という日もある。
バス停にもエアコン
ドバイのバス停は冷房付きだ。ガラス張りの小さなブースにエアコンが設置されており、バスを待つ間は涼しい。
夏場の路上の気温は50度近く、体感温度はさらに高い(湿度が40%を超える日もある)。冷房なしのバス停で10分待つだけで、熱中症のリスクがある。冷房付きバス停は贅沢ではなく、生存に関わるインフラだ。
世界にはバス停にエアコンが付いている都市がどれだけあるか。この一点だけで、UAEの気候条件の極端さが分かる。
在住日本人の冷房戦略
日本人在住者の多くが実践している電気代節約のポイントはいくつかある。
エアコンの設定温度を24〜25度にする。UAEの家庭のデフォルト設定は20〜22度が多いが、2度上げるだけで電気代が10〜15%下がるとされる。
不在時にエアコンを完全にオフにしない。夏場にオフにすると室温が50度近くまで上がり、帰宅後に元の温度に戻すのに大量の電力を使う。27〜28度で維持しておく方が結果的に省エネになる。
窓にUVカットフィルムを貼る。直射日光による室内温度の上昇を抑えられる。
カーテンを閉める。当たり前のようだが、効果は大きい。
冷房と持続可能性の矛盾
UAEは再生可能エネルギーへの投資で世界的に注目されている。アブダビのNoor Abu Dhabiソーラープラントは世界最大級の太陽光発電施設の1つだ。
しかし、太陽光で発電した電力の多くが、太陽光を遮断するための冷房に使われている。太陽のエネルギーで太陽の熱を冷やす。この循環は、砂漠に1,000万人が住む都市を維持するコストの本質を映している。
「なぜ砂漠にこんな都市を作ったのか」という問いに、UAEは「エアコンがあるから」と答えている。そのエアコンのコストを誰が払い続けるかが、この都市の持続可能性を左右する。
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