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UAEは「国」ではなく「ブランド」として設計されている

エミレーツ航空、ドバイモール、バージ・カリファ、ルーヴル・アブダビ——UAEの国家ブランディング戦略の構造と、それが在住者の生活に与える影響を分析する。

2026-05-17
UAE国家ブランディングドバイエミレーツ航空戦略

この記事の日本円換算は、1AED≒42円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AED)の金額を基準にしてください。

2024年、ブランドファイナンスの「Nation Brands」ランキングで、UAEは世界のトップ20に入った。人口1,000万人の小国が、人口1億人超のドイツやフランスと並ぶブランド価値を持っている。

これは偶然ではない。UAEは建国以来、国そのものを「商品」としてブランディングしてきた。

「世界一」コレクション

バージ・カリファ(世界一高いビル、828m)。ドバイモール(世界最大級のショッピングモール、延床面積50万㎡以上)。パーム・ジュメイラ(世界最大の人工島)。ドバイフレーム(世界最大の額縁型建造物、150m)。

UAEの「世界一」の数は異常だ。ギネス世界記録の保持数で世界トップクラスであり、毎年新しい「世界一」が追加されている。

これらは観光名所であると同時に、広告だ。バージ・カリファが建った2010年、「ドバイ」という単語の世界的な検索量が爆発的に増えた。1,000億円以上の建設費に対して、メディア露出による広告効果は数兆円規模だったと推定されている。

ビルを建てて広告を出すのではない。ビルそのものが広告だ。

エミレーツ航空——空飛ぶ国家ブランド

エミレーツ航空はドバイ政府が100%出資する国営航空会社だ。世界150以上の都市に就航し、A380の保有数は世界最多。

航空会社としての収益だけでなく、エミレーツはドバイへの「入口」として機能している。エミレーツ航空でドバイを経由する旅客が年間約9,000万人。その一部がストップオーバー(途中降機)でドバイに滞在し、ホテルに泊まり、ショッピングモールで買い物をする。

サッカーのレアル・マドリード、アーセナルのスポンサー。F1のスポンサー。テニスの全米オープンのスポンサー。これらのスポーツスポンサーシップは航空券を売るためではなく、「ドバイ」という都市名を世界中のテレビ画面に映すためだ。

ルーヴル・アブダビ——文化を買う戦略

2017年、アブダビにルーヴル美術館の分館が開館した。フランスのルーヴル美術館から「ルーヴル」の名称使用権と作品のレンタルを受けて運営されている。この契約の総額は約$1.24十億(約1,920億円)と報じられた。

美術館のコレクションではなく、「ルーヴル」というブランド名を買った。これがUAEの国家ブランディングの本質だ。知名度と信頼性は、0から作るより買った方が早い。

同様の戦略で、ニューヨーク大学アブダビ校、ソルボンヌ大学アブダビ校が設立されている。教育のブランドも「買って」いる。

ブランディングの対価

この国家ブランディングにはコストがある。

建設費。 バージ・カリファ単体で約$1.5十億(約2,325億円)。ドバイの大規模インフラプロジェクトの総額は数百億ドル規模だ。

維持費。 パーム・ジュメイラの砂浜は人工的に維持されており、定期的な砂の補充が必要だ。バージ・カリファの年間維持費は約$2百万(約3.1億円)以上とされる。

人的コスト。 建設現場で働く出稼ぎ労働者の労働環境は国際的な批判の対象になっている。「世界一のビル」の建設を支えたのは、月給1,000〜1,500AED(約42,000〜63,000円)で働く南アジアからの労働者だ。

在住者として見えるもの

ドバイに住むと、「ブランディングされた国」の内側が見える。

イベントが多い。毎月のように新しい商業施設がオープンし、国際的なカンファレンスが開かれ、セレブリティが来訪する。住んでいるだけで「何か起きている場所にいる」感覚がある。

一方で、ブランドの外側——ドバイの旧市街デイラ地区や、シャルジャやアジュマーンの庶民的なエリアを見ると、全く別の都市が存在している。豪華さと日常がシームレスにつながっているのではなく、明確に区画されている。

UAEは国家ブランディングに世界で最も成功した国の一つだ。しかしブランドとは、常に「見せたいもの」と「見せたくないもの」の選別でもある。在住者の特権は、ブランドの裏側まで見えることだ。


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