デイラ地区——ドバイにも「下町」がある
バージ・カリファの影に隠れた旧市街デイラ。スパイス・スーク、ゴールド・スーク、アブラ渡し船。ドバイのもう一つの顔と、在住日本人の穴場スポットを紹介する。
この記事の日本円換算は、1AED≒42円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AED)の金額を基準にしてください。
ドバイに住んで半年、ダウンタウンとマリーナしか知らない日本人駐在員をデイラに連れていくと、「ここ本当にドバイ?」と聞かれる。
路地は狭い。車はクラクションを鳴らし続けている。スパイスの香りが充満している。看板はアラビア語、ウルドゥー語、ヒンディー語。タワーマンションもブランドショップもない。ここは同じドバイだが、ドバイのパンフレットには載っていない方の街だ。
デイラとは何か
デイラはドバイ・クリーク(入江)の北側に位置する旧市街だ。1960年代、石油が発見される前のドバイの中心はここだった。真珠採取と交易で栄えた港町で、クリークを挟んだ対岸のバール・ドバイ(Bur Dubai)と合わせて「オールド・ドバイ」と呼ばれる。
現在のデイラは南アジア系(インド、パキスタン、バングラデシュ)、フィリピン系、アフリカ系の労働者が多く住むエリアだ。ドバイの人口の80%以上が外国人であり、その中でも低〜中所得の労働者が集中するのがデイラと周辺地区だ。
スパイス・スーク
デイラのスパイス・スーク(Spice Souk)は、ドバイに残る最後の伝統的市場の一つだ。
狭い通路の両側にスパイスが山積みになっている。サフラン、カルダモン、ターメリック、クミン、乾燥ライム、フランキンセンス(乳香)。価格はスーパーマーケットの半額以下のものが多い。サフラン1gが5〜10AED(約210〜420円)。スーパーでは同量が20〜30AED。
交渉は前提だ。最初の提示価格から30〜50%値引きされるのが普通。「3つ買うから安くして」が基本の会話だ。
在住日本人の中には、月に一度デイラまでスパイスを買いに来る人がいる。料理好きにとっては宝の山だ。
ゴールド・スーク
スパイス・スークの近くにゴールド・スーク(Gold Souk)がある。300軒以上の宝飾店が並ぶ金の市場だ。
ショーウインドウに並ぶ金のネックレス、ブレスレット、指輪——その量と輝きは圧倒的だ。22金、24金が主流で、デザインはアラビア風の大ぶりなものからシンプルなものまで幅広い。
金の価格は国際相場に連動するため、どの店でも重量あたりの金額はほぼ同じ。交渉の余地があるのは「工賃(making charge)」の部分で、ここで店ごとの差が出る。工賃は金の重量の5〜15%が相場だ。
日本人の在住者が結婚記念日や誕生日のプレゼントにゴールド・スークで買い物をすることもある。日本で同じ品質のゴールドジュエリーを買うより、工賃の分だけ安くなることが多い。
アブラ渡し船——1AEDの水上交通
デイラとバール・ドバイを結ぶアブラ(Abra)は、木造の渡し船だ。運賃は1AED(約42円)。ドバイ・クリークを5分で横断する。
近代的なドバイ・ウォーター・タクシーとは別物で、20人乗りの小さな木船にぎゅうぎゅうに乗り込む。エンジン音が響き、水しぶきがかかることもある。しかしこの42円の船旅は、ドバイで最もコストパフォーマンスの高い体験だと言える。
アブラは1人で乗って対岸に渡ってもいいし、クリークを周遊するチャーター(150AED程度、約6,300円)もできる。夕暮れ時のクリークは、対岸の旧市街の灯りが水面に映って美しい。
デイラの食
デイラの食事は安くて美味しい。
インド料理。 ビリヤニ(炊き込みご飯)が15〜25AED(約630〜1,050円)。ターリー(定食)が20〜30AED(約840〜1,260円)。ダウンタウンの高級インド料理レストランの5分の1以下の価格で、同等以上の味が出る。
パキスタン料理。 チャパティ(全粒粉のパン)とカレー、ケバブ。1食15〜20AED(約630〜840円)。
イラン料理。 ジュージェ・ケバブ(鶏肉のケバブ)やチェロウ(サフランライス)が食べられる店がデイラ周辺に数軒ある。
シャワルマ。 中東のファストフード。チキンまたはラムの薄切り肉をパンで包んだもの。デイラのシャワルマは3〜5AED(約126〜210円)。ドバイモール近くの店では同じものが15AED以上する。
ドバイの二重構造を見る
デイラを歩くと、ドバイが「二つの都市の合成」であることが分かる。
一つは、バージ・カリファとドバイモールに象徴されるショーウインドウ。もう一つは、デイラやアル・クォーズの労働者地区に代表される日常。この二つは物理的には車で20分の距離だが、経済的には別の世界だ。
在住日本人の大半はダウンタウンやマリーナ側に住み、デイラに足を運ぶ機会は少ない。しかし、ドバイという都市を理解するなら、デイラを歩くことは欠かせない。華やかな表面だけを見ていると、この街の成り立ちが分からなくなる。
KAIスポット — みんなで作る現地情報
Kaigaijinでは、現地に住む日本人が実際に使っているスポット(レストラン・クリニック・美容室・不動産など)を国別に集めています。