UAEで離婚すると、親権のルールが日本と全く違う
UAE在住の日本人が離婚に直面したとき、親権・養育費・子どもの出国にUAE法が適用される可能性がある。2023年の家族法改正で非ムスリムの選択肢が増えた最新の制度を解説する。
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UAEで結婚生活が破綻したとき、日本の離婚とは根本的に異なるルールが適用される可能性がある。特に親権と子どもの出国制限は、知らないと深刻な事態を招く。
2つの法体系
2023年以前、UAEの家族法は基本的にシャリーア法(イスラム法)に基づいていた。非ムスリムの外国人にもシャリーア法が適用されるケースがあり、日本人を含む外国人にとって予測が難しい状況だった。
2023年2月、アブダビに「ADJD Family Court for Non-Muslims(非ムスリム家族裁判所)」が設立された(ドバイにも同様の裁判所がある)。非ムスリムの外国人は、この裁判所で自国法またはUAEの「個人法(Personal Status Law for Non-Muslims)」に基づいて離婚手続きを行えるようになった。
つまり現在、UAEには以下の2つの法体系が並存している。
| 対象 | 適用法 | 裁判所 |
|---|---|---|
| ムスリム(国籍問わず) | シャリーア法ベースの家族法 | 通常のFamily Court |
| 非ムスリム外国人 | UAE個人法 or 当事者の本国法 | Non-Muslim Family Court |
日本人同士の離婚であれば、非ムスリム家族裁判所で日本法の適用を申請できる可能性がある。ただし、居住地がUAEである以上、UAEの裁判所の管轄権が及ぶことに変わりはない。
親権(Custody)のルール
UAE法における親権の概念は、日本法と異なる。
日本: 離婚時に父母のどちらか一方が「親権者」になる(単独親権)。共同親権の導入は議論中。
UAE(個人法): 2023年の非ムスリム個人法では、「共同親権(Joint Custody)」が原則とされている。両親が離婚後も共同で子どもの養育に関する決定を行う。子どもの居所(Primary Residence)はどちらの親のもとに置くかを決めるが、もう一方の親にも面会交流権が保障される。
UAE(シャリーア法ベース): 伝統的には、幼い子どもの養育権(Hadana)は母親に優先的に認められる(男児は11歳まで、女児は13歳まで)。ただし、父親が「後見権(Wilaya)」を持ち、教育・医療・渡航に関する重要な決定権は父親にある。
最も注意すべき点: 子どもの出国制限
UAEの離婚で最も深刻なリスクは、子どもの出国制限だ。
離婚の係争中、または一方の親がUAEの裁判所に申し立てを行った場合、子どもの出国が禁止される(Travel Ban)ことがある。これは裁判所の命令であり、違反すれば刑事罰の対象になり得る。
つまり、離婚を検討している段階で、相手に知らせずに子どもを連れて日本に帰国することは、UAEの法律上極めてリスクが高い。「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)」にUAEは加盟しており、無断で子どもを国外に連れ出した場合、返還命令が出る可能性がある。
養育費(Child Support)
非ムスリム個人法では、両親の収入と子どもの生活水準を考慮して養育費が決定される。具体的な算定基準は裁判官の裁量が大きく、日本の養育費算定表のような明確な基準は限られている。
ドバイの生活費(特に学費)が高額であるため、養育費も相応に高くなる傾向がある。子どもがプライベートスクールに通っている場合、学費の分担が大きな争点になる。
実務的なアドバイス
弁護士の確保。 UAEの家族法は近年大幅に改正されており、最新の法律に精通した弁護士が不可欠。日本語対応の弁護士はほぼいないが、英語対応で家族法を専門とする法律事務所はドバイ・アブダビに複数ある。
日本大使館への相談。 在UAE日本大使館には邦人援護担当がおり、一般的な情報提供は受けられる。ただし法的な代理人としては機能しない。
証拠の保全。 UAEの裁判では書面証拠が重視される。メール、WhatsAppのメッセージ、銀行口座の記録などは削除せずに保全する。
子どもの出国前に合意を文書化する。 離婚前に一時帰国する場合、相手の親からの書面による同意(公証付き)を取得しておく。空港のイミグレーションで確認されることがある。
離婚調停(Mediation)
UAE法では、訴訟の前に調停(Mediation/Reconciliation)が義務付けられている。非ムスリム家族裁判所でも、まず調停委員会(Family Guidance Committee)に付託される。
調停が不成立の場合に初めて訴訟に進む。調停期間は通常1〜3ヶ月。この間に合意できれば、訴訟よりも時間と費用を大幅に節約できる。
離婚は誰にとっても難しい状況だが、異国の法体系のもとで直面するとなるとさらに複雑になる。早い段階で専門家に相談することが、自分と子どもを守る最も確実な方法だ。
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