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なぜUAEの人は今も金を「持ち歩く財産」として買うのか——銀行を信じない世界の合理

UAEでは金が単なる装飾品ではなく持ち運べる資産として根付いている。銀行口座より金を選ぶ発想の背景にある、移動する人々の財産観を読み解く。

2026-08-11
資産文化お金

この記事の日本円換算は、1AED≒44円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AED)の金額を基準にしてください。

ドバイの金市場(ゴールドスーク)を歩くと、ショーウィンドウに金がびっしり並ぶ光景に圧倒されます。ここで売られている金は、観光客向けの土産物だけではありません。地元や周辺地域の人々にとって、金は今も「実用的な財産」です。

預金口座にお金を入れるより、金を身につけたり保管したりするほうが安心——この発想は、銀行を当たり前に信じている人には不思議に映ります。だが、その背景を知ると合理性が見えてきます。

金は「国境を越えられる財産」

UAEに集まる人々の多くは、移動する人生を生きています。母国を離れて働き、いずれ帰るかもしれない。情勢が不安定な地域の出身者も少なくありません。

そういう人にとって、銀行口座は意外と頼りない。国によっては口座が凍結されたり、通貨が暴落したり、海外送金が制限されたりします。一方、金はどの国でも価値を持ち、身につけて持ち運べる。「国家の信用」に依存しない財産なのです。

装飾品と貯金の境界がない

UAEの花嫁が結婚式で大量の金を身につける習慣は、見栄えのためだけではありません。あの金は、いざというときに換金できる「彼女個人の資産」でもあります。装飾品であると同時に、移動可能な貯金です。

日本では、貯金は通帳の数字で、宝飾品は消費財です。両者ははっきり分かれています。UAEを含む多くの地域では、その境界が溶けている。身につける財産という考え方が生きています。

銀行という「比較的新しい発明」

考えてみれば、銀行に財産を預けて安心していられるのは、その国家と金融制度が安定している前提があってこそです。これは歴史的に見れば、かなり恵まれた条件です。

国家や通貨が信頼できない経験を持つ人々にとって、金という「制度に依存しない価値」は、銀行よりも古くて確実な選択肢でした。金を買う行為は、後進的なのではなく、不確実な世界を生き抜く知恵だと読めます。

在住者にとってのヒント

UAEに住む日本人にとっても、この視点は無駄になりません。資産を一つの国・一つの通貨・一つの口座に集中させることのリスクを、この街の人々は身をもって知っています。

金そのものを買うかは別として、「財産を分散させ、国境に縛られない形でも持っておく」という発想は、移動する人生を選んだ人すべてに通じます。ゴールドスークの輝きは、不安定な世界を渡る人々の財産哲学の展示でもあるのです。

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