ドバイ—アブダビ12分構想——ハイパーループとUAEの未来交通
ドバイとアブダビを12分で結ぶハイパーループ構想。Virgin Hyperloop Oneの撤退、Hyperloop TTの計画、空飛ぶタクシー、自動運転——UAEが交通の未来に賭ける理由を解説します。
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ドバイとアブダビの距離は約150km。車で1時間半、渋滞に巻き込まれると2時間以上かかる。この2都市間を12分で結ぶ——それがハイパーループ構想だった。減圧チューブの中をカプセルが時速1,000km以上で移動する技術で、実現すれば東京—名古屋間のリニアより速い。
Virgin Hyperloop Oneの盛衰
2016年、UAEはVirgin Hyperloop One(当時Hyperloop One)と覚書を締結し、ドバイ—アブダビ間のハイパーループ計画を発表した。2017年にはドバイで実物大のポッド(車両)が公開され、世界中のメディアが「未来の交通がドバイから始まる」と報じた。
しかし2023年末、Virgin Hyperloop(社名変更後)は全従業員を解雇し、事実上の事業停止に至った。理由は技術的な課題というよりも、商業化までの資金調達が続かなかったことだ。2020年にネバダ州の試験線で時速172kmの有人走行を実現していたが、時速1,000km以上の商業運行までの道のりは遠かった。
それでもUAEは止まらない
Virgin Hyperloopの撤退後も、UAE政府は次世代交通への投資を続けている。
Hyperloop TT(Hyperloop Transportation Technologies): 別のハイパーループ企業として、アブダビのAldar Propertiesと提携し、アブダビ—アル・アインの商業路線を検討していると報じられている。ただし、実用化の時期は明確ではない。
空飛ぶタクシー(eVTOL): ドバイ道路交通局(RTA)は2017年から空飛ぶタクシーの試験プログラムを進めており、Joby AviationやArcher Aviation等の企業と協議している。ドバイ国際空港—パームジュメイラ間の短距離運航が初期ルートとして検討されている。
自動運転バス: ドバイメトロの駅と商業施設を結ぶ自動運転シャトルの実証実験が複数エリアで行われている。RTAは「2030年までにドバイの交通の25%を自動運転にする」という目標を掲げている(出典:RTA公式サイト)。
なぜ「実現していない技術」に投資し続けるのか
UAEのGDPに占める石油収入の割合は首長国によって異なるが、ドバイはすでにGDPの90%以上が非石油部門だ。ドバイの経済モデルは「信用を売る」ことで成り立っている。世界最高層ビルを建て、人工島を作り、万博を開催する。「この場所は未来がある」と世界中の投資家・企業・人材に信じさせることがドバイの産業そのものだ。
ハイパーループが完成するかどうかは、ある意味で二次的な問題だ。「ハイパーループを計画している国」という看板そのものが、テック企業の誘致やフリーゾーンへの法人設立に寄与する。
在住者の現実の移動手段
未来交通の計画と在住者の日常は別だ。ドバイ—アブダビ間の移動は、現状では車(E11高速道路)が主力で、バス(所要約2時間、片道25AED / 約1,050円)も運行している。2026年4月時点、高速鉄道「Etihad Rail」の旅客サービスはまだ限定的で、ドバイ—アブダビ間の定期旅客運行の本格開始が待たれる。
12分で着くハイパーループの代わりに、2時間のバスに揺られる。そのギャップが、UAEという国の「未来への時差」を感じさせる。ただし、この国が過去50年でやってきたことを考えると、「まだ実現していないだけ」と見ることもできる。