砂漠の国にマングローブ林がある——UAEの環境保全という逆説
UAEには砂漠のイメージに反して広大なマングローブ林が存在します。アブダビのジュベイル・マングローブ・パーク、ドバイ・クリークの保護区、環境保全の現状を解説します。
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年間降水量が100mm以下の砂漠国家に、約176平方キロメートルのマングローブ林が広がっている。UAEの海岸線を航空写真で見ると、砂漠の茶色い大地とペルシャ湾の青い海の間に、不自然なほど鮮やかな緑の帯が走っている。
アブダビのマングローブ
UAEのマングローブ林の約75%はアブダビ首長国に集中している。なかでも「Jubail Mangrove Park(ジュベイル・マングローブ・パーク)」は、2020年にアブダビ環境庁(EAD)が一般公開した自然公園で、木製のボードウォークを歩きながらマングローブ林を間近に観察できる。入場無料。カヤックツアー(約75〜150AED / 約3,150〜6,300円)も人気がある。
アブダビのマングローブは主にAvicennia marina(ヒルギダマシ)という種で、海水の塩分に耐え、気温50℃を超える環境でも生育する。この過酷な環境適応力が、砂漠の海岸線にマングローブが存在する理由だ。
ドバイ・クリークの保護区
ドバイにもマングローブがある。ドバイ・クリーク(Dubai Creek)の河口域に位置する「Ras Al Khor Wildlife Sanctuary(ラス・アル・ホール野生生物保護区)」は、約6平方キロメートルの湿地帯で、冬季にはフラミンゴが数百羽飛来する。ドバイ中心部から車で15分、ビジネスベイの高層ビル群の背後に広がる湿地という立地が独特だ。入場無料、3カ所の観察小屋(ハイド)から野鳥観察ができる。
在住日本人にとっては、「週末にモールではなく野鳥観察に行く」という選択肢が存在すること自体が意外かもしれない。
ウム・アル・カイワインのマングローブ
あまり知られていないが、ウム・アル・カイワイン(Umm Al Quwain)首長国にもマングローブの群生地がある。ドバイから北東へ約50km。観光開発がほとんど進んでいないため、カヤックでマングローブの水路を進むと、フラミンゴやサギが至近距離で観察できる。ツアー料金は1人100〜200AED(約4,200〜8,400円)程度で、ドバイ発の半日ツアーも催行されている。
観光客がほぼいない静かな水路で、マングローブの根が海水に浸かる音だけが聞こえる。ドバイのスカイラインとは別の時間が流れている。
植林プログラムの規模
UAEは2030年までにマングローブ1億本を植林する目標を掲げている(出典:UAE Ministry of Climate Change and Environment)。2023年のCOP28(アブダビExpo City Dubaiで開催)では、マングローブの炭素吸収能力が注目され、UAEが「Mangrove Alliance for Climate(MAC)」を主導した。
マングローブ1ヘクタールあたりの炭素吸収量は熱帯雨林の3〜5倍とされており、小さな面積で大きな効果を得られる。石油産出国が排出削減のためにマングローブに投資するという構図は、皮肉ではあるが合理的でもある。
環境保全の矛盾
UAEの一人あたりCO2排出量は世界でもトップクラスだ。冷房で電力を大量消費し、海水淡水化プラントでエネルギーを使い、人工島を建設する。その同じ国が環境保全に巨額を投じている。
矛盾に見えるが、UAEの戦略を「石油後の経済を準備する長期投資」として見ると、マングローブ植林もExpo City Dubaiの持続可能性館も、環境ブランディングという同じ文脈に並ぶ。砂漠に緑を作る行為そのものが、この国の「不可能を可能にする」という自己イメージの延長線上にある、と考えることもできる。