値段ではなく砂糖の量に税をかける——UAEの清涼飲料税が2026年に「グラム制」になった理由
UAEは2026年1月1日、甘い飲料への物品税を「価格の50%」から「100mlあたりの糖分量」に応じた3段階に切り替えた。8g以上は1リットル1.09AED、5g未満はゼロ。税の物差しを変えると、メーカーと消費者の行動はどう変わるか。
この記事の日本円換算は、1AED≒43円で計算しています(2026年10月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AED)の金額を基準にしてください。
UAEのスーパーの飲料棚の前で、2026年から同じジュースでも税金が違う、ということが起きています。
値段の違いではありません。中身の違いです。
2026年1月1日、UAEは甘い飲料にかかる物品税(excise tax)の計算方法を変えました。それまでは価格の50%。今は、100mlあたりに含まれる糖分の量で決まります。
3つの段
新しい区分は次のとおりです。糖分には、果汁などの天然の糖、添加された砂糖、その他の甘味料が合算されます。
| 区分 | 100mlあたりの糖分 | 1リットルあたりの税額 |
|---|---|---|
| 高糖 | 8g以上 | 1.09AED(約47円) |
| 中糖 | 5g以上8g未満 | 0.79AED(約34円) |
| 低糖 | 5g未満 | 0AED |
| 人工甘味料のみ(または人工甘味料+糖分5g未満) | — | 0AED |
330mlの缶に直すと、高糖の飲料で約0.36AED(約15円)、中糖で約0.26AED(約11円)。低糖なら税はかかりません。
対象外になるものもあります。添加物のない果汁100%のジュース、乳または代替乳が75%以上の飲料、乳児用ミルク、医療用・特別食用の飲料などです。エナジードリンクはこの段階制には入らず、従来どおり価格の100%が課税されます。
根拠は物品税に関する内閣決定197/2025号と、改正された物品税の連邦政令法です。湾岸協力会議(GCC)の財政経済協力委員会がこの方式を承認しており、サウジアラビアも同じ2026年1月1日から導入しました。
「値段の50%」の何が問題だったか
UAEが甘い飲料に物品税をかけ始めたのは2017年です。当初の方式は、価格の50%でした。
この方式には、健康政策として見ると奇妙な性質がありました。高い飲料ほど税が高く、安い飲料ほど税が安い。糖分の量は関係ない。
高級なスパークリングジュースは税が重く、大容量で安い砂糖たっぷりの炭酸飲料は相対的に軽い。砂糖を減らしたいという目的と、税の重さが比例していませんでした。
体温計で体重を測っているようなものです。何かの数字は出るけれど、測りたいものを測っていない。
新しい方式は、物差しを価格から糖分に替えました。税の重さと、減らしたいものの量が、ようやくそろったことになります。
段差が生む「設計の誘導」
3段階の仕組みで面白いのは、税額が連続的ではなく、段差になっている点です。
100mlあたり8.0gの飲料と7.9gの飲料では、税額が1リットルあたり0.30AED違う。5.0gと4.9gでは、0.79AEDとゼロの差です。
メーカーにとっては、配合を少し変えるだけで、下の段に移れる余地があります。砂糖を少し減らして、8gや5gの線の下に入れる。人工甘味料に置き換えれば、税はゼロになる。
段階制の税は、消費者の行動以上に、作り手のレシピを動かすように設計されています。
もう一つ、手続き上の仕組みもあります。製造者や輸入者は、産業・先端技術省が発行する「糖分・甘味料含有量の適合証明書」を、認定検査機関の結果にもとづいて取得する必要があります。証明書がない場合、その飲料は高糖として課税されます。
糖分を証明できないものは、最も甘いものとして扱う。立証の責任をメーカー側に置いた設計です。
所得税のない国の「行動に課す税」
UAEには、個人の所得税がありません。その代わりに、2018年に付加価値税(VAT)5%を導入し、それより前の2017年に、たばこ、エナジードリンク、甘い飲料などに物品税をかけ始めました。
所得や資産には課さず、特定の消費に課す。その消費のなかでも、健康に害があると考えられるものに重く課す。物品税は、税収のためというより、行動を変えるための価格シグナルとしての性格が強い税です。
今回の改正は、そのシグナルの精度を上げたものと言えます。
在住者・旅行者の生活で見えること
表示ラベルの見方が変わる。飲料の栄養成分表示で「100mlあたりの糖分」を見れば、その飲料がどの段に入っているかが見当がつきます。5gと8gという二つの数字を覚えておくと、棚の前で比べやすくなります。
値札の動きは一様ではない。旧制度で価格の50%を払っていた高価格の飲料は、新制度で税が下がった可能性があります。逆に、安くて甘い飲料は税の比重が上がった可能性があります。改正後の値段の動きが商品によってばらばらなのは、このためです。
暑さの厳しい夏の水分補給。屋外で汗をかいたあと、甘い清涼飲料やスポーツドリンクで水分をとる人は多いはずです。糖分の多い飲料ほど税がかかる仕組みは、水や無糖の飲料を選ぶ動機を価格の面から少し強めています。
エナジードリンクは別格。エナジードリンクは段階制の外で、価格の100%の税が続いています。日本から来た人の感覚より割高に感じることがあるのは、そのためです。
物差しを替える
税は、何を数えるかを決めた時点で、半分は効果が決まっています。
価格を数えれば、高いものが重くなる。量を数えれば、多いものが重くなる。糖分を数えれば、甘いものが重くなる。UAEは9年かけて、数える対象を値段から砂糖のグラム数に替えました。
スーパーの飲料棚に並ぶ缶やボトルは、見た目は2025年と変わりません。ただ、その一本一本に、100mlあたり何グラムという数字で決まる、目に見えない値札がついています。
出典
- 段階制の税率・適合証明書: UAE連邦税務庁(FTA)
- 税率区分の解説: Gulf News
- 対象外の飲料: KPMG
- サウジアラビアでの導入: EY Tax News