Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
経済・ビジネス

砂漠のど真ん中に、カーボンニュートラルの都市を作ろうとした

アブダビ郊外のマスダールシティは、2006年に構想された世界初のゼロカーボン都市計画。理想と現実のギャップ、縮小された計画、それでも残った実験の価値を読む。

2026-05-07
UAEアブダビマスダールサステナブル環境

この記事の日本円換算は、1AED≒42円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AED)の金額を基準にしてください。

石油産出国が、石油に頼らない都市を建設しようとした。この矛盾が、マスダールシティの出発点であり、最大の面白さでもある。

2006年、アブダビ政府はマスダールシティ(Masdar City)の建設を発表した。当初の計画は野心的だった。面積約6km²、人口4万人、雇用5万人。CO2排出ゼロ、廃棄物ゼロ、自動車ゼロ。すべてのエネルギーを再生可能エネルギーでまかない、公共交通は自動運転のPRT(パーソナル・ラピッド・トランジット)で行う。完成予定は2016年。総投資額は約220億USD(約3.4兆円)。

2026年現在、マスダールシティは完成していない。そして、当初の計画とはかなり違うものになっている。

何が変わったのか

2008年の金融危機がまず計画を直撃した。アブダビの財政も影響を受け、投資のペースが鈍った。

さらに、技術的な壁もあった。PRT(磁気浮上型の自動運転ポッド)は試験運用されたが、全市域に展開するにはコストが見合わず、一部区間のみに縮小された。「自動車ゼロ」の目標は撤回され、電気自動車の利用が認められた。

「カーボンニュートラル」の定義も修正された。当初の「ゼロカーボン」から「低カーボン」に目標が引き下げられた。現実的には、砂漠の気候でエアコンなしの生活は不可能であり、冷房の電力消費をゼロにするのは極めて困難だ。

完成時期も何度も延期され、2030年代の完全完成を目指す形になっている。

それでも残った価値

計画が縮小されたからといって、マスダールシティが失敗したわけではない。

IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の本部。 2015年にマスダールシティにIRENAの本部が移転した。約170カ国が加盟する国際機関の本部が、石油産出国の中のサステナブル都市に置かれている。

マスダール科学技術大学。 MITと提携して設立された大学院大学で、再生可能エネルギー、サステナビリティ、AI分野の研究が行われている。卒業生は中東のクリーンテック業界に人材を輩出している。

実験としてのデータ。 砂漠の気候条件下で太陽光発電、風力発電、省エネ建築がどう機能するかの実証データが蓄積されている。パッシブクーリング(自然の気流を利用した冷却)の技術は、マスダールシティでの実験を経て他の中東の建築に応用されている。

建築と設計

マスダールシティの都市設計は、伝統的なアラブの都市構造を参考にしている。

狭い路地(幅6〜8メートル)で直射日光を遮り、風の通り道を作る。建物の高さを周辺の砂漠よりも高く設定し、海風を引き込む。中央の広場には高さ45メートルの風力タワーが設置され、上空の涼しい空気を地上に送り込む。

この設計の結果、マスダールシティ内の体感温度は、周辺エリアよりも15〜20度低いとされる。エアコンに頼らずに快適性を確保する——「テクノロジー」ではなく「デザイン」で解決するアプローチだ。

太陽光パネルは建物の屋上だけでなく、駐車場の屋根やバス停にも設置されている。晴天日数が年間350日を超えるアブダビでは、太陽光発電の効率が極めて高い。

在住日本人が訪れるなら

マスダールシティはアブダビ国際空港から車で約15分。ドバイからは車で約1時間半。訪問は自由で、入場料はない。

実際に訪れると、「未来都市」の期待値と「まだ工事中の開発地」の現実の間にギャップを感じるかもしれない。完成している区画は全体の一部であり、レストランやカフェはあるものの、「都市」として機能している感覚はまだ薄い。

しかし、パッシブクーリングの路地を歩いたとき、砂漠のど真ん中なのに風が涼しいことに驚く。その体験は、パンフレットでは伝わらない。

石油の国が石油後の世界を実験している。その実験が完璧ではないことも含めて、マスダールシティは見に行く価値がある場所だ。


KAIスポット — みんなで作る現地情報

Kaigaijinでは、現地に住む日本人が実際に使っているスポット(レストラン・クリニック・美容室・不動産など)を国別に集めています。

UAEのKAIスポットを見る・情報を追加する

コメント

読み込み中...