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10年住んでも「仮住まい」——期限つきの人生をどう設計するか

UAEでは永住権が前提にない。いつか去ることが決まっている場所で、人はどう住み、何に投資し、どこに根を張るのかを考える。

2026-09-19
移住人生設計社会構造UAE

この記事の日本円換算は、1AED≒44円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AED)の金額を基準にしてください。

UAEに10年住んでいる人に「ここが家ですか」と聞くと、多くが少し言葉に詰まります。生活の実体はここにある。友人も、仕事も、子どもの学校もここにある。それでも「家」と言い切れない何かが残る。

理由は制度にあります。UAEの居住は、原則として更新され続ける許可の上に成り立っています。仕事がなくなれば、あるいは条件を満たさなくなれば、滞在の根拠が消える。国籍取得の道はごく限られています。この構造が、住む人の心のあり方まで規定しています。

「いつか帰る」を前提にした設計

滞在が有限だとわかっていると、生活の設計が変わります。家具は中古で買い、車は売りやすい車種を選び、大きな買い物は控える。所有ではなく、期間限定の利用としてモノを扱う。

この感覚が最も具体的に見えるのが、中古売買アプリの画面です。並んでいるのはほとんど使われていない家具で、写真の背景はたいてい引っ越し途中の部屋。売り手は物を古くしたから手放すのではなく、去るから手放している。市場の供給量が、人が去る速度で決まっている。

人間関係も似た形になります。すぐに親しくなる代わりに、別れも早い。深く関わりすぎないことを、無意識に選ぶ人もいます。全員が仮住まいであることを知っているので、誰もそれを責めません。

根を張らないことのコスト

一方で、この仮住まい感には代償があります。地域社会への関与が薄くなりやすい。政治参加の道はほぼなく、街の将来を自分の問題として考える動機も生まれにくい。

投票権のない住民が人口の大半を占める社会がどう成り立つのか——これはUAEを語るときに避けられない論点です。住民としての権利と、居住の許可は、まったく別のものだという事実が、日々の生活の背景に常にあります。

資産をどこに置くか

実務としていちばん重い問いは、資産の置き場所です。UAEでの収入は多くの場合ここでの生活のためのものですが、老後は別の国で迎える可能性が高い。

すると、どの通貨で、どの国に、どういう形で貯めるかを自分で決める必要が出ます。UAEには公的年金の受け皿が外国人にはなく、退職金の制度は勤続に応じた一時金が中心です。設計を会社任せにできる部分が、日本より小さい。

通貨の面でも、判断は自分に返ってきます。UAEでの給与はAEDで、AEDは米ドルに対して固定的に運用されています。つまり日本円に換算した手取りは、円ドル相場の動きにそのまま連動する。UAEでの給与額が一円も変わらなくても、日本の家族が受け取る金額は年単位で大きく動きうる。生活費として毎月必要な分と、急がない資産の移動を分けて考えるだけでも、判断は整理しやすくなります。

判断が難しいのは、帰る先が確定していないことです。日本かもしれないし、別の国かもしれない。行き先が決まらないまま、資産の置き場を決めなければならない。ここが、駐在とも移住とも違う、UAE在住者特有の難所です。

ゴールデンビザが変えたこと、変えなかったこと

長期の居住ビザ制度が導入され、一定の条件を満たす人は、雇用主に紐づかない形で長く滞在できるようになりました。これは大きな変化です。

ただし、それでも更新が前提の許可であることに変わりはありません。条件を満たし続ける必要があり、条件そのものが制度改定で変わりうる。仮住まいの期間が長くなったとは言えても、仮住まいでなくなったとは言いにくい。制度の詳細は変わるため、最新の公式情報の確認が要ります。

有限だからこそ濃くなる

否定的な話ばかりではありません。滞在が有限だと知っていることには、独特の効用があります。

日本での生活は、明日も来年も同じように続くと感じられます。だから先送りが起きる。UAEでは、「あと2年しかいないかもしれない」という意識が常にあるため、行きたい場所へ行き、会いたい人に会う判断が早くなる。有限性は、時間の密度を上げます。

子どもにとってはどうか

親が仮住まいでも、子どもにとってここは育った場所です。母語も友人関係も、この土地でできている。

帰国したとき、子どもは「帰る」のではなく「移る」ことになる。この非対称は、駐在家庭が抱える最も難しい問題の一つです。親の仮住まい感覚と、子どもの現実感がずれている。

9月、また誰かが去り、誰かが来る

UAEの9月は、人の入れ替わりが一段落する時期です。夏に帰国した人が去り、新しく着任した人が生活を立ち上げ、新学年が始まる。

去年一緒にいた誰かがもういない。そのことに慣れていく過程が、この国で暮らすということでもあります。別れが前提にある人間関係は、この国の友情の形そのものを変えています。9月は、その入れ替わりが最も見えやすい月です。

家とは何かという問い

UAEに住むと、「家」という言葉の定義が揺らぎます。生活のあるここか、戸籍のある日本か、それとも別のどこかか。

答えを一つに決める必要はないのかもしれません。複数の場所に少しずつ属している状態を、欠落と見るか、獲得と見るか。仮住まいという言葉には、どちらの読み方も残されています。

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