UAEに「寛容省」という役所がある——多様性を国家戦略として運営する国
UAEには寛容を担当する政府機関が存在する。多文化共生を理念ではなく行政の対象として扱う発想の背景と、その現実的な狙いを読み解く。
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UAEには、寛容や共生を所管する政府機関が設けられてきました。「寛容」という、本来は個人の心のあり方に属するものを、わざわざ国家の行政分野として掲げている。これは世界的に見ても珍しい発想です。
寛容を役所が担当する——一見すると奇妙ですが、人口の大半が外国人で、世界中から多様な宗教・文化が集まるUAEにとって、これは理念ではなく実務上の必要から生まれた仕組みです。
多様性は放っておくと衝突する
世界中から人が集まれば、自然に仲良くなるわけではありません。宗教も価値観も生活習慣も違う人々が同じ街に密集すれば、放置すれば摩擦や対立が生まれます。
UAEの経済は、その多様な外国人労働力の上に成り立っています。彼らが安心して暮らし、衝突せずに働ける環境がなければ、国の繁栄そのものが揺らぐ。だから多様性の管理は、慈善ではなく事業継続の条件になります。
異なる宗教施設の併存
UAEでは、イスラム教の国でありながら、他宗教の礼拝施設の存在も認められてきました。複数の宗教施設が近接して建つ光景は、この国の方針を象徴しています。
これは「信教の自由」という人権理念であると同時に、世界中の人材を呼び込むための投資でもあります。自分の信仰を持ち込める街でなければ、優秀な外国人は長く住んでくれません。寛容は、人材獲得競争の武器でもあるのです。
「上から運営される寛容」の特徴
ここで重要なのは、UAEの寛容が「下から自然発生した」のではなく、「上から設計された」ものだという点です。市民運動や草の根の対話の積み重ねではなく、国家が戦略として多様性を運営している。
この設計には強みと限界の両面があります。強みは、迅速に秩序立った共生環境を作れること。限界は、寛容の範囲があくまで国家の許す枠内に留まることです。あらゆる表現や主張が自由なわけではありません。
共生を「管理」する社会に住む
在住者として暮らすと、この管理された寛容の心地よさと窮屈さの両方を感じます。多様な人々が衝突せずに暮らせる秩序のありがたさと、その秩序が国家の設計の上に成り立っているという感覚。
寛容を国家が運営するという発想は、共生を理想ではなく実務として捉えたときに見えてくる現実的な解です。UAEは、多様性を「祈ること」ではなく「管理すること」で実現しようとしている——そう読むと、この国の社会設計の一貫性が見えてきます。