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UAEの火星探査機Hopeは、建国50年目に火星軌道に到達した

2021年、UAEの火星探査機Hopeが火星周回軌道に入った。建国からわずか50年の国が宇宙に到達した背景にある、戦略的な人材育成と脱石油の思考を読み解く。

2026-05-07
UAE宇宙火星テクノロジー国家戦略

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2021年2月9日、UAEの火星探査機「Hope(アル・アマル)」が火星周回軌道に入った。アラブ圏初、世界で5番目の火星到達だ。

UAEの建国は1971年。火星到達までわずか50年。その間にこの国は、砂漠の首長国連合から石油大国になり、観光と金融のハブになり、そして宇宙開発国になった。

なぜ宇宙なのか

UAEが宇宙開発に踏み出した理由は、ロマンではない。戦略だ。

UAEの2071年長期計画(UAE Centennial 2071)では、石油依存からの脱却が明確に掲げられている。宇宙開発は、その脱石油戦略の一環として位置づけられている。

人材育成。 宇宙開発には物理学、工学、ソフトウェア、通信技術の高度な人材が必要になる。Hopeプロジェクトでは、UAE人の若手エンジニア約200人がアメリカのコロラド大学ボルダー校の研究チームと共同で探査機を設計・製造した。目的は「探査機を作ること」だけでなく「探査機を作れる人材を育てること」だった。

国際的なブランディング。 火星到達は国のブランドを格上げする。「砂漠の金持ち国」から「テクノロジーで未来を作る国」へのイメージ転換。ドバイの高層ビルが「建設で世界一」を見せたのと同じロジックで、宇宙は「科学技術で世界と競争できる」ことを示す。

産業の多角化。 宇宙技術は通信衛星、地球観測、リモートセンシングなどの民間産業につながる。UAEは2019年にKhalifaSatという地球観測衛星も打ち上げており、衛星データの商用利用を進めている。

Hopeが見たもの

Hopeは火星の大気を観測するための周回機だ。着陸はしない。

火星の気象(砂嵐、大気の温度変化、水蒸気の分布)を1年以上にわたって観測し、火星の大気がどのように変化しているかのデータを収集している。NASAやESAが着陸機やローバーで地表を調査しているのに対し、Hopeは大気の全球観測に特化している。

2023年には、Hopeが撮影した火星のオーロラの画像が科学誌で注目された。火星にも磁場の局所的な残存があり、太陽風との相互作用でオーロラが発生する——このデータはHopeの観測で初めて全球的に捉えられた。

ムハンマド・ビン・ラシードの宇宙野心

UAEの宇宙開発を推進しているのは、MBRSC(Mohammed Bin Rashid Space Centre、ムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター)だ。ドバイの首長であるムハンマド・ビン・ラシードの名を冠している。

MBRSCは2017年に「Mars 2117」計画を発表した。2117年までに火星に人間が居住する都市を建設するという100年計画だ。現時点では構想段階であり、具体的なロードマップは限られているが、「100年後を見据えた国家ビジョンを提示する」こと自体が、UAEの国際的なポジショニング戦略の一部だ。

2019年にはUAE初の宇宙飛行士ハッザ・アル・マンスーリがISS(国際宇宙ステーション)に滞在した。アラブ人として初のISS長期滞在(ただし滞在期間は約8日間)を果たし、UAE国内では英雄扱いされた。

在住日本人が感じる宇宙への空気

ドバイやアブダビに住む日本人にとって、宇宙開発は日常的に意識する話題ではないかもしれない。しかし、その影響は間接的に生活に入り込んでいる。

MBRSCのあるドバイには、宇宙関連のスタートアップやR&D拠点が増えている。関連するAI・ロボティクスの企業も集まりつつある。テック系の仕事でUAEに来る日本人が増えている背景のひとつに、この国の「テクノロジー大国化」戦略がある。

ドバイの「未来博物館(Museum of the Future)」には宇宙関連の展示があり、Mars 2117計画のビジョンがインタラクティブに体験できる。建物自体がドバイのランドマークになっており、訪問する価値がある。

石油で稼いだ資金を宇宙に投資する。宇宙で育った人材が次の産業を作る。その循環は、まだ始まったばかりだ。


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