夜明け前に始まる異様な鳴き声——オーストラリアの鳥がうるさい進化的な理由
笑い声のような鳥、金属音を出す鳥、他の鳥の声を完璧に真似る鳥。オーストラリアの鳥類が騒がしいのには、大陸の孤立と鳴禽類の起源が関わっている。
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夜明け前、外で誰かが大声で笑っている。それで目が覚める。窓を開けても人はいない。
正体はワライカワセミ(kookaburra)で、実際に人の笑い声に非常によく似た声を出す。他にも、金属を叩くような音を出す鳥、悲鳴のような声で群れで鳴く鳥、警報器のような音を出す鳥がいる。日本の鳥のさえずりを基準に持っていると、そもそも音の性質が違う。
鳴く鳥は、この辺りから広がった
なぜこうなのか。手がかりのひとつは、鳴禽類(songbirds)の進化史にある。
現在の鳥類研究では、スズメ目の鳴禽類の起源が、かつてのゴンドワナ大陸のオーストラリア側にあった可能性が高いと考えられている。つまり、世界中でさえずっている鳥たちの祖先が、この地域から広がっていったという見方だ。
もしそうなら、オーストラリアの鳥が特殊なのではなく、むしろ多様性の源流に近い場所に、古い枝も新しい枝も一緒に残っている、ということになる。世界の他の地域には、そこから出ていった一部の系統が定着した。本店に品揃えが全部ある、という状況に似ている。
大きな声を出す条件
音そのものの性質にも、環境からの説明がつく部分がある。
まず、開けた環境が多い。密な森では高い音がよく通るが、開けた疎林や乾燥地では、遠くまで届く低めの音や、大きな音量のほうが有利になる。植生の構造が、有効な鳴き声の設計を変える。
次に、体格の大きな鳥が多いこと。オウム類(コカトゥーやローリキート)が身近に群れでいる環境は、世界的にはそれほど一般的ではない。体が大きければ、出せる音も大きい。夕方、街路樹に白い大型のオウムが数十羽降りてくると、会話が成立しなくなる音量になる。日本の都市部で、鳥に会話を中断させられる経験はそう多くない。
そして、蜜を主食にする鳥が多いこと。花蜜という資源は、場所と時期が偏在する。特定の木が咲いたとき、そこに集中して資源が発生する。この種の資源は、防衛する価値が高い。声で存在を主張し、他の個体を排除する行動が発達しやすい条件がそろっている。
騒がしさは、資源の分布の形から出てくる。これは経済学でいう、参入障壁を築くコストの話に少し似ている。守る価値のあるものがあるほど、守るための投資が増える。
音を「使う」鳥
さらに極端な例が、コトドリ(lyrebird)だ。他の鳥の声を高い精度で模倣することで知られ、周囲の環境音を取り込むことがあるとも報告されている。
なぜそこまでするのかについては、配偶行動における誇示という説明が中心になる。複雑な音を正確に再現できるということ自体が、能力の信号として働く。歌の難易度が、そのまま実力の証明になる構造だ。
音楽の世界で、技巧的なパッセージが演奏者の評価に直結するのと似ている。難しいことをやってみせること自体に価値が生まれる。
生活への影響
現実的な話として、鳥の声は在住者の生活に影響する。
夜明け前から鳴く鳥がいるので、寝室の防音や遮光が睡眠の質に直結する。物件を選ぶとき、周囲の樹木の状況を見ておくと、住んでからの静けさが予測しやすい。大きな木があるのは景観としては良いが、そこに群れが来る可能性も込みで考えることになる。
春先には、繁殖に関わる行動が活発になる。カササギフエガラス(magpie)が巣に近づく人間を威嚇する行動は、この時期の風物として広く知られている。歩行者や自転車が対象になりやすく、注意喚起が出ることもある。9月前後はちょうどその季節にあたり、春の入り口を告げる指標としては、ジャカランダの開花より一足早い。
この国の生き物との距離感は、全体にこういう調子だ。ヘビやクモへの警戒と同じで、危険というより、日常の一部として折り込んでおくべき条件に近い。
慣れると、地図になる
住んでいるうちに起きる変化がある。最初は騒音として認識していた音が、だんだん情報として聞こえてくる。
どの鳥がいつ鳴くかで、時間帯が分かる。夜明け前の笑い声、日中の金属音、夕方の群れの喧騒。カーテンを開けなくても、だいたいの時刻が分かるようになる。群れの音がすれば、どこかの木が咲いているのが分かる。特定の警戒声がすれば、猛禽か猫が近くにいるのかもしれないと思う。
音の風景を読めるようになると、住んでいる場所の解像度が上がる。日本の都市部では、自然音がここまで生活に入り込む機会は多くない。うるさいと感じていたものが、いつのまにか、その土地に住んでいる証拠として聞こえるようになる。
朝5時に笑い声で起こされる日々にも、そういう副産物がある。