春の花粉症と、雷雨の日に起きる喘息——オーストラリアの季節性アレルギー事情
日本のスギ花粉から逃れたと思ったら、別の花粉が待っている。オーストラリアの春季アレルギーと、この国で知られる雷雨喘息という現象について。
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スギがない。ヒノキもない。あの季節が来ない。日本で花粉症に悩まされていた人が、この国に来て最初に安堵するのがこれだ。
そして翌年の春、別の症状で医者にかかることになる。
主犯は草の花粉
オーストラリアの春季アレルギーで中心的な役割を果たすのは、樹木ではなく草本、特に牧草類の花粉だとされている。日本の花粉症がスギという単一の樹種に強く依存しているのに対し、こちらは草地から飛んでくる。
このため、症状の出る場所と時期の分布が違う。牧草地が広がる地域、あるいはその風下にあたる都市で、春から初夏にかけて症状が出やすい。9月は、ちょうどその季節の入り口にあたる。ジャカランダが咲き始める頃には、たいてい鼻のほうが先に反応している。
種類の違いは、対処にも影響する。日本で使っていた対策の一部は有効だが、飛散源の位置と時期が変わるので、いつどこで気をつけるかの感覚は作り直しになる。
「雷雨喘息」という現象
オーストラリアの春季アレルギーを語るうえで、避けて通れない現象がある。thunderstorm asthma(雷雨喘息)と呼ばれるものだ。
大まかな仕組みとして説明されているのは、次のような流れになる。花粉が大気中に多く存在する時期に、特定の条件の雷雨が発生すると、湿気と気流の作用で花粉粒子が細かく砕ける。細かくなった粒子は、通常の花粉より気道の奥まで到達しうる。
その結果、普段は鼻の症状だけで済んでいる人にも、呼吸器の強い症状が出ることがある。喘息の既往がない人が発症する場合もあると報告されている。
2016年11月21日、メルボルンでこの現象による大規模な健康被害が発生した。数千人規模が呼吸器の症状で救急外来に押し寄せ、救急通報が短時間に集中して、医療体制が処理能力を超えた。関連する死者は10人にのぼり、この種の事象としては世界最大規模の被害として記録されている。この経験を受けて、州の保健当局や気象機関が、リスクの高い日を予測して警報を出す仕組みを整備してきた。
注意しておきたいのは、この日に倒れた人の多くが、それまで「ちょっと花粉症気味」程度の自覚しかなかったという点だ。喘息の診断を受けていなくても、対象外とは言い切れない。
備えとしてできること
警報を確認する習慣 春から初夏にかけて、花粉の飛散予報と、地域によっては雷雨喘息のリスク予報が提供されている。ビクトリア州をはじめ、複数の州で情報が公開されている。アレルギーの自覚がある人は、この時期にチェックする習慣をつけておくといい。
リスクの高い日は屋外を避ける 警報が出ている日、特に雷雨が近づいている時間帯は、屋外にいない。窓を閉め、可能なら空調を室内循環に切り替える。単純だが効果がある。
症状がある人は事前に医師に相談 喘息の既往がある人、あるいは春に強い症状が出る人は、シーズンに入る前にGP(かかりつけ医)に相談し、必要な薬を手元に用意しておくのが現実的だ。この国のGPは予約制で、初診なら数日から数週間待つことも珍しくない。症状が出てから予約を取ると、間に合わない。
GPとの付き合い方
この国の医療制度では、専門医にかかる前にGPを経由するのが基本になる。アレルギーの検査や、専門的な治療が必要な場合も、まずGPに相談し、そこから紹介を受ける流れになる。
日本と違うのは、市販薬の入手経路だ。この国では、一部の抗ヒスタミン薬などが薬局(chemist)で購入でき、薬剤師に相談したうえで選べる。ただし、処方が必要な薬もあるので、日本で常用していたものがそのまま買えるとは限らない。
日本から薬を持ち込む場合は、入国時の申告ルールを確認してほしい。この国は持ち込み品の規制が厳しく、医薬品についても申告が必要な場合がある。処方薬であることを示す書類を用意しておくと、手続きが円滑になる。
引っ越し先で症状が変わる
もうひとつ、この国ならではの現象がある。都市によって、飛散するアレルゲンの構成が違う。
牧草地の分布、植えられている街路樹の種類、風向き、気候。これらが地域ごとに違うので、ある都市では平気だった人が、別の都市で症状が出ることがある。逆もある。
だから、「オーストラリアでは花粉症にならなかった」という他人の経験は、自分に当てはまるとは限らない。国単位ではなく、地域単位で考える必要がある。この国の生活条件が緯度と地域で大きく分かれるのは、アレルギーに限った話ではない。
また、外来種の植物が広く分布している地域もあり、その花粉が症状の原因になっている場合もある。この大陸の植生は、在来種と外来種が複雑に混ざっている。
春を待つ気持ちが少し変わる
日本を離れて、あの憂鬱なスギの季節から解放されたと思ったのに、別の季節に別の症状が待っている。少し落胆する話ではある。
ただ、日本と違う点もある。飛散源が草本中心なので、地域や住環境の選び方で、ある程度リスクを下げられる余地がある。都市の中心部と、牧草地の近くでは条件が違う。物件を選ぶときに、この観点を一つ足しておくと、毎年の数か月が変わるかもしれない。
9月は春の入り口で、これからの季節に向けた準備をするのにちょうどいい時期にあたる。症状が出てから慌てるより、少し前に医師に相談しておく。それだけで、この国の春の過ごしやすさが変わってくる。