先住民族和解とWelcome to Country——オーストラリアで知っておきたい歴史的背景
オーストラリアの先住民族(アボリジナル)和解プロセスの現状を解説。Welcome to Countryの意味と作法、Acknowledgement of Country、ウルル(エアーズロック)登山禁止の背景、日本人在住者が知っておくべき文化的文脈まで。
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オーストラリアで会議・式典・コンサートが始まるとき、こんな言葉が冒頭に読み上げられることがある。
「We acknowledge the Traditional Custodians of the land on which we meet today...(私たちが今日集まっているこの土地の伝統的管理者を認め、敬意を表します)」
初めて聞くとき、多くの日本人は「何のことだろう?」と感じるかもしれない。これが「Acknowledgement of Country(カントリー承認)」と呼ばれる慣行だ。
背景——6万5,000年の歴史と侵略
アボリジナル・オーストラリア人(アボリジナル及びトレス海峡諸島民)は、世界最古の連続した文化を持つとされ、少なくとも6万5,000年前から現在のオーストラリアの土地に暮らしてきたことが考古学的に確認されている。
1788年のイギリスによる植民地化以降、先住民族は土地を奪われ、強制移住・同化政策・子どもの強制分離(Stolen Generations)という組織的な迫害を受けた。この歴史は20世紀後半まで続いた。
2008年、ケビン・ラッド首相が議会で先住民族への公式謝罪演説を行った。これは和解プロセスの象徴的な転換点だったが、土地権・経済格差・健康格差の現実的な解決には今も課題が残る。
Welcome to CountryとAcknowledgement of Country
Welcome to Country:そのCountry(土地)の伝統的オーナーである長老(Elder)が行う歓迎の儀式。長老本人または認定された文化的権威を持つ人物でないと行えない。
Acknowledgement of Country:誰でもできる「承認の言葉」。会議・イベント・学校の朝礼等で、その土地の伝統的管理者に敬意を表する言葉を述べる慣行。長老の存在なしに行える。
この違いを理解しておくと、オーストラリアの公的な場での「慣例」の意味が腑に落ちてくる。
ウルル登山禁止の背景
2019年10月、ウルル(アナング族の聖地、かつてエアーズロックと呼ばれた)への登山が永久に禁止された。
登山禁止を求めてきたのはアナング族の人々だ。ウルルは彼らにとって信仰と文化の中心地であり、「他者が登る」ことは「日本人が靖国神社の屋根に登る」ような意味を持つという説明がなされたこともある。
観光客にとってはかつての「名物」が失われたと感じる人もいるかもしれないが、この決定は先住民族の声が実際に政策に反映された事例でもある。
在住者として知っておくべきこと
日本人在住者が日常で意識すべき場面は多くはないが、公的な場での慣行を知っていると不意打ちを食わない。
また、アボリジナルアートの購入時に「本物かどうか」を確認する意識も持っておくといい。模倣品・著作権侵害品が流通していることがあり、正規のアボリジナルアーティストを通した購入が文化的に適切な選択だ。
オーストラリアの現在を理解するには、この歴史的文脈なしには難しい部分がある。