オーストラリアのバーベキューは社会統合装置だ。公園の無料グリルが意味するもの
オーストラリアには1万2,000以上の公共バーベキュー設備がある。無料で誰でも使えるこのインフラは、単なる公園の備品ではなく、移民国家としての社会統合思想が形になったものかもしれない。
オーストラリアの国立公園の80%以上に公共バーベキュー設備がある。ビーチ沿いには電気グリルが並び、多くは無料で使える。全国で1万2,000ヶ所以上という数字は、人口2,600万人の国として圧倒的に多い。日本の公園にグリルがない(あるいは持ち込みが必要)のと対照的だ。この差異は、単なる習慣の違いではないかもしれない。
バーベキューという「どこでも開ける扉」
バーベキューには特徴がある。料理の腕前が関係ない。言語の流暢さが関係ない。宗教的な食のルールさえ事前にわかれば対応できる。屋外で食べ物を焼くという行為は、世界中のほぼあらゆる文化で行われており、「共に食べる」ことを入口にすれば、コミュニケーションの最初のハードルが一気に下がる。
オーストラリアは人口の約30%が海外生まれの移民で構成されている(2021年センサス)。毎年20万人前後が新たに永住権を取得する国で、「国民としての共通体験」を作ることは政策的にも意味を持つ。1972年にウィットラム政権が多文化主義政策を打ち出した後、バーベキューがその「体験の場」として機能するようになったという指摘は文化人類学の研究でも見られる。
なぜ電動グリルを無料開放するのか
公共バーベキューには費用がかかる。設置、維持、清掃。なぜ各自治体はこれを無料開放するのか。
一つは「参加障壁の除去」だ。バーベキューを楽しむためには機材が必要で、機材を持たない新移民や低所得層にはアクセスしにくい。無料の公共インフラにすれば、所得や移住歴に関係なく誰でも参加できる。
もう一つは「公共空間の活性化」だ。人が集まる場所には治安上の一定の効果があるという都市計画上の知見がある。バーベキューが設置された公園には家族連れが集まり、コミュニティの「目」が生まれる。
ロイ・モーガンリサーチの2023年調査によれば、オーストラリア人の約63%が月1回以上バーベキューを主催または参加するという。このうち相当数が公共の場でのバーベキューを含む。
バーベキューに持ち込まれる世界の食
興味深いのは、オーストラリアのバーベキューが多文化の影響を受けながら変化してきた点だ。2022年の調査では、56%のオーストラリア人がタイ料理のレモングラスチキンやインドのタンドーリラムなど、グローバルなマリネや調理法をバーベキューで試したと回答している。
かつては羊肉のチョップと厚切りステーキが主役だったオーストラリアのバーベキューは、今やベトナムのバインミー具材、韓国のカルビ、日本の焼き鳥が並ぶことも珍しくない。バーベキューというフォーマットが「移民それぞれの食文化の持ち込みを許容する器」になっている。
在住日本人とバーベキュー
日本人にとって、バーベキューへの招待は「本物のオーストラリア生活」に触れる機会の一つだ。
現地のバーベキューに参加する際の一般的な作法として、食べ物や飲み物を持ち寄る(「BYO(Bring Your Own)」文化)のが基本だ。何も持たずに来るのは失礼になることもある。また、グリルを使う順番を自然に共有する習慣があり、混んでいる公共グリルでは見知らぬ人と順番を譲り合うのが普通だ。
これは些細に見えて、オーストラリアの「見知らぬ人とカジュアルに言葉を交わす」文化の入口でもある。日本のコンビニ的な「他者との距離感の維持」とは逆の方向性で、最初は戸惑うかもしれないが、慣れると外国での孤立感を和らげる効果がある。
バーベキューは火を囲む儀式だ。人類が共同体として生きてきた何万年かの歴史の中で、火を囲んで食べることが「仲間」の確認行為だった。オーストラリアの公共バーベキューは、その原始的な機能を現代の移民国家に持ち込もうとしている——と言うと大げさかもしれないが、全くの見当違いでもない気がする。