オーストラリアで中古車を買う——rego・CTP・名義変更、州ごとに違う手続きの全体像
オーストラリアでの中古車購入は、車体価格より周辺手続きでつまずく。rego(登録)、CTP(強制保険)、名義変更、点検証明。州によって呼び名も手順も違う仕組みを整理する。
この記事の日本円換算は、1AUD≒113円で計算しています(2026年6月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AUD)の金額を基準にしてください。
売買サイトの広告に「rego until March」と書いてある。3月まで登録が有効という意味で、これが車の価値の一部として値段に乗っている。同じ年式・同じ走行距離でも、regoが残っている車と切れている車では、買った後にやることがまるで違う。
「登録が車に紐づいていて、売買と一緒に引き継がれる」という発想が、日本の車検とはずれている。ここを理解しないまま契約すると、購入後に想定外の出費が発生する。
regoとは何を指しているのか
registration(登録)の略で、日常会話では「レゴ」と発音される。この国の英語は語尾を切って母音をつける癖が強く、servo(ガソリンスタンド)やbottle-o(酒屋)も同じ変換の産物だ。regoもその一員で、正式名称で言う人はまずいない。
中身は、車を公道で走らせるための登録だ。通常は年単位、州によっては半年・3か月単位でも更新できる。更新料は州と車種によって幅があるため、購入前に自分の州の交通当局サイトで確認しておきたい。
重要なのは、regoが有効な車とそうでない車では、購入後にやることが変わる点だ。有効なregoが残っている車を買えば、名義を自分に移すだけで走り出せる。regoが切れている車(unregistered)は安く出ていることがあるが、登録し直すために点検を受け、保険を手配し、書類を揃える必要がある。安さの理由がここにある。
CTPは「任意保険」ではない
もうひとつの落とし穴がCTP(Compulsory Third Party)だ。人身事故の被害者に対する補償を担う強制保険で、これに入っていない車は登録できない。
ややこしいのは、州によって仕組みが違うことだ。regoの支払いに自動的に含まれている州もあれば、保険会社を自分で選んで別途契約し、その証明を持って登録する州もある。ニューサウスウェールズ州では歴史的に「グリーンスリップ」という通称で呼ばれてきた。名前が違うだけで中身は同じ目的の制度、と考えておくと混乱しにくい。
そしてCTPがカバーするのは基本的に対人だ。相手の車や自分の車の修理費は含まれない。物損まで守りたければ、別途の任意保険(comprehensive など)を自分で契約することになる。「強制保険に入っているから安心」は成り立たない。
名義変更には期限がある
売買が成立したら、所有者の名義を移す手続きが必要になる。これはオンラインで完結する州が多いが、共通しているのは期限が短いことだ。多くの州で、売買から2週間程度以内という決まりがある。遅れると罰金の対象になりうる。
売り手側にも、売却を届け出る義務がある。これを怠ると、売った後の駐車違反やスピード違反の通知が元の所有者に届くという事故が起きる。買う側としては、売り手がきちんと届け出るかどうかを確認し、自分の側の手続きも当日中に済ませておくのが安全だ。
また、州によっては名義変更時に取得税(stamp duty)が発生する。車両価格に応じた課税で、金額はそれなりになる。予算を組むときは、車体価格に加えてこの税と名義変更手数料を見込んでおきたい。
点検証明の要否も州で分かれる
中古車を個人間で売買する際、一定の点検証明を求める州がある。クイーンズランド州の safety certificate、ビクトリア州の roadworthy certificate などが該当し、売り手が用意するのが原則だ。逆に、この種の証明を売買時には求めない州もある。
自分が住む州がどちらのルールなのかを知らないと、「証明書は?」と聞くべき場面で聞けず、整備状態の分からない車を掴むことになる。個人売買を検討しているなら、契約前に州の交通当局のページで確認する価値がある。
現実的な購入前チェック
制度以外に、実務としてやっておくと安全なことがいくつかある。
まず、その車に借金(担保)が残っていないか、盗難車でないかの照会だ。連邦の個人財産担保登記(PPSR)で有料照会でき、金額は数ドル程度と安い。ここを省いて、ローンの残った車を買ってしまうと厄介なことになる。
次に、購入前の第三者点検。自動車クラブや整備工場が実施しており、数百AUDの費用がかかるが、数千AUD規模の修理を避けられるなら安い買い物になりうる。特に、機械に詳しくない状態で個人売買に臨むなら検討したい。
最後に走行距離。オーストラリアは移動距離が長い国なので、日本の中古車の感覚で年式に対する走行距離を判断すると、選択肢が極端に狭くなる。10万キロ超えが普通に流通している市場だと理解しておくほうが現実的だ。
距離の感覚そのものを作り直す必要もある。この国では距離が価格の前提として組み込まれていて、週末に片道300キロ走るのが特別な行為ではない。年間走行距離を日本と同じ前提で見積もると、燃料費もタイヤ代も足りなくなる。
制度は変わる
ここに書いた枠組みは、州ごとの違いも含めて変更されることがある。特に登録料、CTPの仕組み、取得税の税率は見直しの対象になりやすい。実際に手続きするときは、自分の住む州の交通当局(Transport for NSW、VicRoads、Transport and Main Roads など)の公式ページで最新の情報を確認してほしい。
なお、購入と並行して日本の免許からの切り替えも進めておきたい。こちらも州ごとの制度で、猶予期間の長さが州で違う。車を買ってから免許の期限に気づく、という順序は避けたい。
車が生活の前提になる国で、最初の1台を買うまでの数週間は、制度を一気に学ばされる期間になる。逆に言えば、ここを一度通れば、この国の行政手続きの作法がだいたい分かる。州が主役で、連邦は脇にいる。その構造が、車1台を通してよく見える。