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不動産・生活

オーストラリアの住宅危機と日本の空き家問題、正反対の理由で起きている

オーストラリアは家が足りない。日本は家が余っている。同じ住宅問題が正反対の原因で起きている構造を、人口動態・移民政策・土地制度の違いから読む。

2026-04-07
オーストラリア日本住宅空き家移民政策人口

この記事の日本円換算は、1AUD≒100円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AUD)の金額を基準にしてください。

オーストラリアでは住宅が足りない。シドニーの住宅価格の中央値は約AUD 1.2M(約1.2億円、CoreLogic 2024年データ)で、平均的な世帯年収の約13倍。メルボルンでも約10倍。若い世代が家を買えない「住宅危機」が社会問題になっている。

一方、日本では住宅が余っている。総務省の「住宅・土地統計調査」(2023年)によると、全国の空き家数は約900万戸。空き家率は約13.8%。地方部では空き家率が20%を超える自治体もある。

「家が足りない」と「家が余っている」。同じ「住宅問題」が正反対の形で現れている。なぜこうなったのか。

原因1: 人口動態が逆方向

オーストラリア: 2024年の人口は約2,650万人。年間約1.5〜2%の人口増加を続けている。自然増(出生)に加え、移民が年間30〜40万人規模で流入する(Australian Bureau of Statistics)。人口が増え続ける国では、住宅の需要も増え続ける。

日本: 2024年の人口は約1.24億人。2008年の1.28億人をピークに減少を続けている。出生率は1.20(2023年、厚生労働省)で、先進国の中でも最低水準。人口が減る国では、住宅の需要も減る。

この基本構造が、住宅市場の方向を決めている。オーストラリアは「毎年数十万人分の家が新しく必要になる」国で、日本は「毎年数十万戸の家が不要になる」国だ。

原因2: 移民政策の設計

オーストラリアは移民国家だ。人口の約30%が海外生まれ(ABS、2021年国勢調査)。毎年の移民受入数は人口比で世界最高水準にある。

移民はまず都市部(シドニー、メルボルン、ブリスベン)に集中する。仕事があるから。その結果、都市部の住宅需要が供給を大幅に上回る。政府は毎年の住宅建設目標を掲げているが、建設業の人手不足や許認可の遅れで目標を達成できていない。

日本は移民の受入数が少ない。在留外国人数は約340万人(2024年6月時点、出入国在留管理庁)で、増加傾向にはあるが、オーストラリアの規模には遠い。しかも外国人労働者は都市部に集中し、地方の人口減少は止まらない。

原因3: 土地と建物の価値の考え方

オーストラリア: 住宅は「資産」だ。不動産の価値は時間とともに上がるもの、という前提で社会が設計されている。ネガティブ・ギアリング(投資用不動産のローン利子を所得から控除できる税制)やキャピタルゲイン減税が不動産投資を後押しする。結果として投資需要が住宅価格をさらに押し上げる。

日本: 住宅は「消耗品」だ。日本の木造住宅の耐用年数は法定で22年。築20年を超えると建物の評価額はほぼゼロになる。「古い家は価値がない」という前提が社会に浸透しているため、中古住宅市場が育たない。住宅の価値が下がることが前提なので、投資需要も限定的。

この差が空き家問題に直結している。日本では相続した実家を売ろうとしても、築40年の木造住宅に買い手がつかない。取り壊すにも費用がかかる。固定資産税は更地にすると6倍になる(住宅用地特例がなくなるため)。結果として「放置」が最も合理的な選択になり、空き家が増え続ける。

原因4: 都市構造と規制

オーストラリア: シドニーやメルボルンの都市圏は「スプロール型」で、郊外に広がっている。だが近年は都市のコンパクト化を目指し、中密度住宅(タウンハウスや中層マンション)の建設を推進している。しかしNIMBY(Not In My Backyard)——「うちの近所には建てないで」——という既存住民の反対が強く、計画通りに進まない。

日本: 日本の都市計画は比較的柔軟で、用途地域の制限はあるが、建て替えの自由度は高い。東京では築古のビルを取り壊してマンションを建てることが日常的に行われている。むしろ「建て過ぎ」が問題で、需要以上に新築マンションが供給される。

数字で見る住宅供給

指標オーストラリア日本
人口約2,650万人(増加中)約1.24億人(減少中)
年間住宅建設数約17〜18万戸約80〜90万戸
人口1,000人あたり新築約6.5戸約7戸
住宅不足/余剰推定10〜20万戸不足約900万戸余剰

人口あたりの新築数は実はそこまで変わらない。だがオーストラリアは人口が増えているのに足りず、日本は人口が減っているのに建て続けている。方向が逆なのに、どちらも建設を止められない。

オーストラリアは「需要があるから建てる」。日本は「新築信仰と建設業の雇用維持のために建てる」。動機が違う。

正反対の問題が教えてくれること

オーストラリアの住宅危機を解決する方法の一つは「もっと建てること」だ。日本の空き家問題を解決する方法の一つは「建てるのをやめること」。正反対の処方箋になる。

だがどちらの国も、構造的な問題が「止められない」状態を作っている。オーストラリアは移民を止めれば経済が回らないし、日本は新築を止めれば建設業が崩壊する。

オーストラリアに住む日本人が家を買おうとすると、日本との価格差に驚く。シドニーの1LDKのマンションがAUD 700,000〜1,000,000(約7,000万〜1億円)。日本なら東京でもその半額以下で戸建てが買える。

この価格差は、2つの国の人口動態と住宅に対する考え方の差が、数十年かけて積み上がった結果だ。「家が足りない」も「家が余っている」も、どちらもその国の社会構造が生んだ必然であり、簡単には変わらない。

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