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アボリジナル文化——6万年の歴史を持つ先住民との現代の関係

オーストラリアの先住民アボリジナルの文化は6万年以上の歴史を持つ。Acknowledgement of Country、ドリームタイム、土地権利運動、そして在住者が知っておくべきこと。

2026-05-05
アボリジナル先住民文化歴史

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オーストラリアで会議やイベントに参加すると、冒頭で必ず聞くフレーズがあります。「I would like to acknowledge the Traditional Owners of the land on which we meet today(本日集まったこの土地の伝統的な所有者に敬意を表します)」。企業のプレゼンテーション、学校の朝礼、コンサートの開幕——あらゆる公の場で行われるこの儀礼を、日本から来たばかりの人は最初、何のことかわからない。

6万年の連続

アボリジナルとトレス海峡諸島民(Aboriginal and Torres Strait Islander peoples)の歴史は、考古学的証拠から少なくとも6万5,000年前に遡ります(Madjedbebe遺跡の発掘調査、2017年、Nature誌掲載)。これは人類が連続して居住した最も古い記録の一つです。

ヨーロッパ人の入植(1788年)以前、オーストラリア大陸には推定25万〜100万人の先住民が、250以上の言語グループに分かれて暮らしていました。「アボリジナル」は単一の民族ではなく、数百の異なる国(Nation)の総称です。

Dreaming(ドリーミング)

アボリジナル文化の根幹にあるのが「Dreaming」(ドリーミング、またはDreamtime)という概念です。日本語では「夢の時」と訳されることがありますが、これは誤解を招きやすい。

Dreamingは、創世の物語であり、法であり、土地との関係を定義する包括的な世界観です。祖先の精霊が大地を旅し、川、山、動物、植物を創り出した。その「旅の道筋」がSonglines(歌の道)として口承で伝えられ、土地のナビゲーション、水場の位置、季節の知識として機能してきました。

「過去の神話」ではなく「現在も続いている関係」として理解する方が正確です。

植民地化と「盗まれた世代」

1788年のイギリス入植以降、先住民は土地を奪われ、暴力と病気にさらされました。人口はヨーロッパ人入植後の約150年で推定70〜90%減少したとされています。

20世紀に入っても、政府主導で先住民の子どもを家族から引き離し、白人家庭や施設に収容する政策が続きました。1910年〜1970年代まで続いたこの政策の対象者は「Stolen Generations(盗まれた世代)」と呼ばれています。

2008年、ケビン・ラッド首相(当時)が国会で公式に謝罪(National Apology)を行いました。この日(2月13日)は「National Apology Day」として記念されています。

2023年のVoice Referendum

2023年10月14日、アボリジナルとトレス海峡諸島民に連邦議会への助言機関(Voice to Parliament)を設置するかどうかの国民投票が行われました。結果は、賛成39.9%、反対60.1%で否決。

この結果は、先住民の権利をめぐるオーストラリア社会の分断を浮き彫りにしました。都市部では賛成が多く、地方部では反対が多い傾向がありました。否決後も、先住民の健康・教育・住居・雇用における格差(Gap)は存続しており、「Closing the Gap」政策は継続されています。

在住者が知っておくべきこと

Acknowledgement of Country: 公の場でのスピーチやプレゼンの冒頭で行うことが期待される場面があります。特に企業環境では、外国人スタッフにも説明と参加が求められます。

Welcome to Country: これはAcknowledgementとは異なり、その土地の伝統的所有者(Elder)自身が行う正式な歓迎の儀式です。会社の行事や大規模イベントでElderを招いて行われることがあります。

地名と先住民名: 多くの地名がアボリジナル語に由来しています。Sydney harbour の先住民名は「Warrane」、Uluru は植民地名「Ayers Rock」より先住民名が公式名として定着しました。

アート: アボリジナルアートはオーストラリア美術の中核であり、国際的な美術市場でも高い評価を受けています。ドットペインティングに代表されるスタイルは観光土産にもなっていますが、特定のモチーフ(Dreamingの物語を描いたもの)は文化的に敏感で、許可なく使用することは不適切とされます。

NAIDOC Week: 毎年7月に開催される先住民文化の祝祭週間。各地でイベントが行われ、先住民の歴史、文化、功績を称えます。

6万年の歴史を持つ文化と、250年弱の入植の歴史。この2つの時間軸が重なる場所にオーストラリアは立っています。在住者としてこの国に暮らす以上、その重なりを理解しようとする姿勢は、生活の質そのものに関わってきます。

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