アボリジナル文化とWelcome to Countryの意味
会議の冒頭に必ずある「Welcome to Country」のアナウンス。表面的な理解ではなく、その背景と現代オーストラリアでの意義を知っておく。
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「We acknowledge the Traditional Custodians of this land...」——会議の冒頭、公式イベントの開始前、メールのフッターにも時々入っている。オーストラリアに来たばかりの頃は「なぜ毎回こんなことを言うのか」と疑問に思った人も多いはず。
Welcome to CountryとAcknowledgement of Countryの違い
混同されやすいが、これは2種類のものだ。
Welcome to Country: 土地の伝統的な管理者(Traditional Custodians)であるアボリジナルまたはトレス海峡諸島民の長老やコミュニティメンバーが行う、歓迎の儀式や言葉。本人たちが行うことが前提。
Acknowledgement of Country: 誰でも行える、土地の伝統的な管理者を認識して敬意を示す言葉。会議の冒頭での読み上げや、公式文書の冒頭に入れるのはこちらが多い。
重要な公式イベントではWelcome to Countryが行われ、日常的な場面ではAcknowledgement of Countryが使われる。
なぜこれが行われるのか
オーストラリアは1788年の英国植民が始まり以降、アボリジナルの人々が土地を収奪され、文化を破壊され、子供を強制的に家族から引き離す政策(Stolen Generations)まで行われた歴史がある。
2008年にケビン・ラッド首相が連邦議会でStoled Generationsへの公式謝罪(National Apology)を行ったことは転換点だったが、それだけで歴史が解消されるわけではない。Acknowledgement of Countryは、その歴史への意識を日常の中で維持するための実践の一つとして位置づけられている。
職場での実践
大企業・政府機関・大学では、ほぼ全ての公式会議でAcknowledgement of Countryが行われる。議長が読み上げる形式もあれば、全員で唱和する形式もある。
外国人社員として参加する場合、どう振る舞えばいいか。答えはシンプルで、「聞く」でいい。特別なアクションは不要。理解した上で静かに参加するだけで十分だ。
自分が司会・議長になった場合、上司や同僚に「どういう文章を使っていますか?」と確認するのが自然。会社ごとに標準のテキストを持っていることが多い。
「National Sorry Day」と「NAIDOC Week」
National Sorry Day(5月26日): Stolen Generationsへの謝罪と追悼の日。
NAIDOC Week(7月第1週): National Aborigines and Islanders Day Observance Committeeの略。アボリジナルおよびトレス海峡諸島民の文化・歴史・業績を称える週間。多くの組織でイベントや食事会が開催される。
これらの時期に「今日は何の日?」と知っているだけでも、オーストラリア社会への理解度を示せる。
アート・音楽・食文化
アボリジナルのアートは世界的に評価が高い。ドットペインティングはその代表的なスタイルで、各デザインの円・波・動物には意味がある。ただし観光用に量産されたものと、コミュニティアーティストによる本物とは区別が必要。購入する場合はAIATSIS(Australian Institute of Aboriginal and Torres Strait Islander Studies)のガイドラインを参考にすると良い。
ディジュリドゥ(didgeridoo)はアボリジナルの管楽器で、世界最古の管楽器と言われている。公演や文化イベントで生の演奏を聴く機会があれば、ぜひ体験したい。
ブッシュタッカー(Bush Tucker)と呼ばれるアボリジナルの伝統食材も近年注目を集めている。ワトルシード(アカシアの種)、カカドゥプラム(ビタミンCが非常に豊富)、レモンマートル等が食材・調味料として使われており、レストランでもメニューに取り入れる店が増えている。
在住者として知っておきたいこと
「アボリジナル」と「トレス海峡諸島民」は別の民族グループ。「アボリジニ」という言葉は使っても間違いではないが、「Aboriginal people」または「First Nations people」という表現が今日では一般的。
コミュニティによって文化・言語・慣習が異なるため、「アボリジナル文化はこういうもの」と一括りにできない多様性がある。500以上の言語があったとされており、現在も約250の言語が使われている。
この背景を知っているかどうかは、オーストラリアで長く仕事をする上で意外と効いてくる。