マグパイの襲撃——オーストラリアで春に人が鳥に怯える理由
オーストラリアの春(9〜11月)、通学路や公園で突然頭を攻撃してくる白黒の鳥、マグパイ。この攻撃行動の生態学的な理由と、在住者が知っておくべき対策を解説する。
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オーストラリアに住んでいると、春先になると郵便配達員がヘルメットにケーブルタイ(結束バンド)を放射状に立てて走る姿を見かけるようになる。冗談ではない。彼らはマグパイ(Australian Magpie、カササギフエガラス)の「スウーピング(swooping)」から身を守っている。
スウーピングとは
スウーピングは繁殖期のオスのマグパイが巣の周囲を通る人間や動物を攻撃する行動だ。後方から高速で急降下し、頭部をくちばしや爪で叩く。時速50km近い速度で飛来するため、気づいたときには遅い。
オーストラリア各州の統計によると、スウーピングによる負傷は年間数千件報告されている。眼球損傷の事例もあり、2021年にはビクトリア州で乳児がマグパイに驚いた親の転倒に巻き込まれて死亡する事故も起きた。
なぜ攻撃するのか
マグパイのスウーピングは本能的な巣の防衛行動だ。繁殖期(8〜10月頃)にオスが巣から半径50〜100m以内に侵入する「脅威」を排除しようとする。
興味深いのは、全てのマグパイがスウーピングするわけではない点だ。研究によると、攻撃行動を示すのは全体の約10%程度のオスに限られる。つまり「危険なマグパイ」は少数派だが、通学路や公園に巣を構えた場合に被害が集中する。
マグパイは個体を記憶できることが知られている。過去に石を投げたり威嚇した人間を覚えていて、翌年以降も優先的に攻撃するという研究報告がある。つまり報復する鳥だ。
対策
各州の自治体や野生動物管理局が推奨する対策はシンプルだ。
迂回する: スウーピングが報告されているルートを避ける。「Magpie Alert」というウェブサイトやアプリでスウーピング報告がマップ上に表示される。
サングラスをかける: 眼球損傷の防止。マグパイは後方から攻撃するので、サングラスの後頭部側に「目」を描くと効果があるという俗説もあるが、科学的な裏付けは弱い。
自転車の場合: ヘルメットにケーブルタイを数本立てる方法が広く行われている。見た目は滑稽だが、マグパイが降下軌道を変えるため一定の効果があるとされる。
やってはいけないこと: 石を投げる、棒で振り払う、巣に近づく。これらはマグパイの攻撃性を強化し、翌年以降さらに激しくなる。また、マグパイは野生動物保護法(Wildlife Act)で保護されており、危害を加えると罰金の対象になる。
オーストラリア人とマグパイの複雑な関係
マグパイはオーストラリアの国民的な鳥でもある。AFL(オーストラリアンフットボールリーグ)のチーム名にもなっており、歌声は「オーストラリアの朝の音」として親しまれている。攻撃的な一面と美しい鳴き声の二面性は、オーストラリア人にとって「厄介だけど愛している」存在だ。
春にオーストラリアに住み始める日本人にとっては、「鳥に頭を殴られる」経験は文字通りのカルチャーショックになるかもしれない。