オーストラリアのMedicare、日本人が使えるケースと使えないケース
オーストラリアのMedicareは「無料の医療制度」と言われるが、日本人全員が使えるわけではない。永住権・ワーホリ・学生ビザ別に対象資格と日豪社会保障協定のカバー範囲を整理する。
この記事の日本円換算は、1AUD≒100円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(AUD)の金額を基準にしてください。
「オーストラリアはMedicareがあるから医療費が無料」——半分正しくて、半分間違い。Medicareが使えるかどうかはビザの種類で決まるし、使えたとしてもカバー範囲には限界がある。渡航してから「対象外だった」と気づく人が実際にいる。
Medicareの基本——誰が対象なのか
Medicare(メディケア)はオーストラリアの公的医療保険制度。対象者はMedicare Levy(給与の2%)を税金として納付し、その代わりにGP(一般開業医)の診察やPublic Hospital(公立病院)での治療が無料または低額で受けられる。
Medicareの対象者(※2025年時点の情報に基づく。最新情報はServices Australiaの公式サイトで確認を):
| ビザ・ステータス | Medicare対象 |
|---|---|
| オーストラリア市民権保有者 | 対象 |
| 永住権(PR)保有者 | 対象 |
| 永住権申請中(特定条件下) | 対象の場合あり |
| ニュージーランド市民(SCV) | 対象 |
| ワーキングホリデービザ(417/462) | 対象外 |
| 学生ビザ(500) | 対象外 |
| 観光ビザ(600) | 対象外 |
| ビジネスビザ(短期) | 対象外 |
ポイントは明快で、永住権または市民権がなければ原則としてMedicareは使えない。
ワーホリ・学生ビザは原則対象外
ワーキングホリデービザ(Subclass 417/462)でオーストラリアに滞在する日本人は、Medicareに加入できない。学生ビザ(Subclass 500)も同様。
学生ビザの場合はOSHC(Overseas Student Health Cover)への加入がビザの条件として義務付けられている。民間の保険商品で、年間AUD 500〜700(約5万〜7万円)が目安。GPの診察や入院はカバーされるが、歯科・眼科はカバー外のプランが多い。
ワーホリの場合は加入義務のある公的・民間保険はないが、無保険で滞在するリスクは大きい。オーストラリアの医療費は高額で、救急外来の受診だけでAUD 500〜1,000(約5万〜10万円)、入院・手術となるとAUD 10,000〜50,000(約100万〜500万円)に達することもある。
ワーホリ・短期滞在者は海外旅行保険か民間の医療保険でカバーするのが現実的な選択肢になる。
日豪社会保障協定——カバーされる範囲と限界
日本とオーストラリアは2009年に社会保障協定を発効している。ただしこの協定は年金の二重加入防止が主目的で、医療保険の相互利用を定めたものではない。
日豪社会保障協定の主な内容:
- 日本から派遣される駐在員は、5年以内の一時派遣であればオーストラリアの年金制度(Superannuation)への加入が免除される
- 逆にオーストラリアから日本への一時派遣も同様
- 両国の年金加入期間を通算して受給資格を判定できる
つまり年金制度の話であって、MedicareやGP診察の無料化とは関係がない。「日豪社会保障協定があるから日本人はMedicareが使える」というのは誤解。
ただし、オーストラリアは11カ国と**RHCA(Reciprocal Health Care Agreement)**と呼ばれる医療相互協定を結んでいる。これに加盟している国の市民は、オーストラリア滞在中にMedicareの一部サービスを利用できる。
RHCAの対象国(※2025年時点): イギリス、アイルランド、ニュージーランド、スウェーデン、オランダ、フィンランド、ノルウェー、ベルギー、イタリア、マルタ、スロベニア。
日本はRHCAの対象国に含まれていない。 そのため、日本国籍の短期滞在者がRHCAを通じてMedicareを利用することはできない。
永住権を取ればMedicareが使える——ただし万能ではない
永住権(PR)を取得するとMedicareに加入でき、以下のサービスが無料または低額で受けられる。
Medicareでカバーされる範囲:
- GP(一般開業医)の診察——Bulk Billingの場合は自己負担ゼロ
- 公立病院での入院・手術
- 血液検査・レントゲン等の診断検査(Medicare Benefits Scheduleに掲載されたもの)
- 一部の眼科検診
- PBS(Pharmaceutical Benefits Scheme)対象の処方薬が割引価格で購入可能
Medicareでカバーされない範囲:
- 歯科治療(成人の一般歯科は対象外。低所得者向けの一部プログラムを除く)
- 眼鏡・コンタクトレンズ
- 救急車の利用(州による。QLDとTASは無料、NSWとVICは有料)
- 私立病院での治療
- 美容医療
- 理学療法・カイロプラクティック(一部を除く)
特に歯科がカバーされないのは日本人にとって意外に感じるかもしれない。オーストラリアでの歯科治療は高額で、クリーニングだけでAUD 200〜300(約2万〜3万円)、抜歯でAUD 300〜500(約3万〜5万円)、クラウンでAUD 1,500〜2,500(約15万〜25万円)が相場。多くのオーストラリア人がPrivate Health Insurance(民間保険)で歯科をカバーしているのはこのため。
Bulk BillingとGap Payment
MedicareがあってもGPの診察が「完全無料」とは限らない。
Bulk Billing: GPがMedicareに直接請求し、患者の自己負担がゼロになる仕組み。Bulk Billingを採用しているGPなら無料で受診できる。
Gap Payment: GPがMedicareの規定額(MBS=Medicare Benefits Schedule)を超える料金を設定している場合、差額を患者が自己負担する。GPによってはAUD 30〜80(約3,000〜8,000円)のGap Paymentが発生する。
近年はBulk Billingを行うGPが減少傾向にあるとの報道もある。都市部よりも地方のほうがBulk Billingの比率が高い傾向がある。
実際のアクション——ビザ別の対応
永住権保有者:
- Medicare加入(Services Australiaで申請)
- 歯科と救急車をカバーしたい場合はPrivate Health Insuranceの追加を検討
- Medicare Levyは給与の2%(高所得者はMedicare Levy Surcharge 1〜1.5%が追加される場合あり)
ワーホリ:
- Medicareは使えない
- 出発前に海外旅行保険に加入するか、現地の民間医療保険に加入する
- 緊急時はPublic Hospitalの救急外来で治療は受けられるが、全額自費
学生ビザ:
- OSHC加入が必須(ビザの条件)
- 教育機関がOSHCの手配を含めている場合もある
- 歯科・眼科は別途カバーが必要
短期滞在(観光・出張):
- Medicareは使えない
- 日本の海外旅行保険でカバー
- クレジットカード付帯の保険で対応する場合は、補償内容と上限額を事前に確認
「Medicareがあるから大丈夫」ではなく、自分のビザと滞在期間に合った保険を組む。それがオーストラリアの医療制度との正しい付き合い方になる。