モスクと寺院と教会が並ぶ街——オーストラリアの多文化主義と宗教施設の実態
オーストラリアは公式に多文化主義を採用している国だ。移民が増えるにつれて、モスク・ヒンドゥー寺院・仏教寺院も都市部に増えてきた。その広がりと軋轢を探る。
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シドニー西部の郊外エリアを車で走ると、ひとつの通り沿いにキリスト教会、モスク、ヒンドゥー寺院が近接している光景に出会うことがある。
オーストラリアの多文化主義は、食や言語だけでなく、宗教施設の地理的分布にも現れている。
移民構成の変化
白豪主義(White Australia Policy)が廃止されたのは1973年。それ以降、移民の出身国は急速に多様化した。中国・インド・フィリピン・ベトナム・レバノン・スーダン——各コミュニティが都市部に集積し、それぞれの文化的・宗教的インフラを築いてきた。
オーストラリア統計局(ABS)の最新センサスデータ(2021年)によれば、宗教を「持たない」と答えた人が最大のカテゴリになっており、キリスト教人口は減少傾向にある。一方でイスラム教・ヒンドゥー教・仏教の人口は増加している。
モスク建設をめぐる摩擦
新しいモスクの建設計画が地域住民の反対を受けるケースは、オーストラリアでも報告されてきた。「騒音」「交通量」という表向きの理由と、文化的・宗教的な不安感が混在していることも多い。
こうした摩擦は、多文化主義の原則と地域感情のギャップを可視化する。「多様性を歓迎する」と言いながら、「隣にモスクはちょっと」という感情は、完全には消えていない。
仏教・ヒンドゥー寺院の役割
アジア系コミュニティにとって、宗教施設は信仰の場だけでなく社会的インフラでもある。言語学校を併設する寺院、コミュニティセンターとして機能する施設、食料支援や相談窓口を提供する宗教団体——移民の初期定着を支える機能を担っている。
日本人仏教徒向けの寺院は少ないが、東南アジア系・中国系の仏教寺院に日本人が参加するケースもある。
多文化主義の現在
「多文化主義(Multiculturalism)」はオーストラリアの公式政策だが、理念と現実の間にはギャップがある。人種差別的な発言や行為の報告は続いており、特定の民族・宗教グループへの就職差別の研究報告もある。
「共存している」のは確かだが、「完全に溶け合っている」わけではない。この「共存しつつ並行する」状態が、オーストラリアの多文化主義の現実的な姿だ。
在住日本人として、この多様性をどう楽しみ、どこで摩擦を感じるか——実際に生活してみないとわからないことが多い。