赤字でも不動産を持ち続ける理由——ネガティブ・ギアリングとオーストラリアの住宅危機
オーストラリアでは投資用不動産が赤字(ローン金利 > 家賃収入)でも税控除が受けられる「ネガティブ・ギアリング」制度がある。これが住宅高騰の一因とされ、政治的に熱い論点になっている。
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「毎月赤字なのに、なぜ投資用マンションを持ち続けるのか」——日本人には直感的に理解しにくいオーストラリアの不動産投資の論理がある。
その答えが「ネガティブ・ギアリング(Negative Gearing)」と「キャピタルゲイン税割引(CGT Discount)」の組み合わせだ。
仕組みの基本
ネガティブ・ギアリングとは、投資用不動産のローン利息などの費用が家賃収入を上回る「赤字状態」のこと。この赤字分を給与収入などの他の所得と合算して税控除できる制度がオーストラリアにはある。
たとえば年収100,000AUD(約970万円)の人が、年間5,000AUD(約48万5,000円)の赤字投資物件を持っていると、課税所得が95,000AUDになる。累進課税のオーストラリアでは、高所得者ほどこの効果が大きい。
加えて、1年以上保有した投資物件を売却した場合、キャピタルゲイン(売却益)の50%が非課税になる(CGT Discount)。
「赤字でも持ち続ける」の合理性
赤字を垂れ流しながら物件を保有し続ける理由は、「将来の値上がりが赤字分を補ってくれる」という期待だ。
10年間、毎年5,000AUDの赤字(合計50,000AUD)を計上しつつ、物件が500,000AUD値上がりすれば、それを50%控除後の税率で税を払っても大きな利益が残る——という計算が成立してきた。
オーストラリアの主要都市での不動産価格が長期的に上昇し続けてきた実績が、この戦略を機能させてきた。
住宅危機との関係
批判の視点がある。ネガティブ・ギアリングが投資家の不動産購入を促進し、実需(自分が住むため)の購入者との競争を激化させ、住宅価格の高騰を助長しているという指摘だ。
生まれてから一度も持ち家を持てない世代が増える一方で、複数物件を保有する投資家が税制優遇を受けて資産を増やしている——という格差の構造として批判される。
廃止・縮小を主張する政党もあったが、現在も制度は維持されている。政治的に「不動産投資家は有権者の大きな層」であることも影響している。
日本との比較
日本にも不動産の減価償却を使った節税スキームはあるが、ネガティブ・ギアリングほど広く使われているわけではない。
オーストラリアでは「マイホームより投資用物件を先に買う」という人が存在するほど、投資目的の不動産購入が文化として根付いている。「家は住む場所」より「家は資産形成ツール」という発想が強い社会だ。
住宅問題を理解するとき、この税制の存在を知っているかどうかで、見えてくる景色が変わる。