安い食事とスロットマシンが同居する場所——RSLクラブが担ってきた矛盾した役割
オーストラリアの各地にあるRSLクラブやレジャークラブは、格安の食事とコミュニティ空間を提供する一方、その原資をギャンブル機で得ている。この構造が地域社会に何をもたらしたか。
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外食費の高さに参った在住者が、遅かれ早かれ誰かに教えられる場所がある。RSLクラブだ。
相場からすると明らかに安い価格で食事が出てくる。子ども連れでも入れる。駐車場が広く、席がゆったりしている。なぜこの価格が成立するのかと不思議に思って奥へ進むと、答えが薄暗い一角で光っている。ずらりと並んだスロットマシン、通称ポーキーズ(pokies)だ。
元は復員兵の互助組織だった
RSLはReturned and Services Leagueの略で、もともとは戦争から戻った兵士とその家族を支えるための組織として始まった。各地の支部が集会所を持ち、そこが会員の集まる場所になった。追悼の場であり、社交の場であり、相互扶助の場でもある。ANZAC Dayの朝の式典が各地のクラブを起点に行われるのも、この出自による。壁に掛かった古い連隊の写真と、その先で光っている機械が、同じ建物の中に同居している。
会員制のクラブという形式には、酒類の提供に関する規制の歴史も関わっている。誰でも入れる店とは別の枠組みで運営される施設として発展し、非営利の団体として、収益を施設や地域に還元することを前提に運営されてきた。
だから今でも、多くのクラブは入り口で会員かどうかを尋ねる。非会員でも入れることが多いが、その場でビジターとして登録を求められたり、会員価格との差がついたりする。年会費は数AUD程度と低額に設定されているところもあり、近所のクラブに入っておく在住者は珍しくない。
収益構造の非対称
ここから話が複雑になる。クラブの収入の相当部分を、ギャンブル機が支えている州がある。特にニューサウスウェールズ州は、歴史的にクラブでのポーキーズ設置が早くから認められ、台数の多い州として知られてきた。
構造としてはこうなる。ポーキーズが利益を生む。その利益で、食事を原価に近い価格で出し、ボウリング場やスポーツクラブを維持し、地域のスポーツチームに寄付する。安い食事とコミュニティ施設は、ギャンブルの収益から補助されている。
この構造は、クラブの中だけの話ではない。スポーツ賭博がこの国の日常にどれだけ深く入り込んでいるかを見れば、ポーキーズはその一部門にすぎないことが分かる。試合中継の合間に流れるオッズの広告と、クラブの奥の一角は、同じ産業の別の窓口だ。
これは、家族連れが安く夕食を食べられることの原資を、別の誰かが機械の前で失った金が支えている、ということでもある。同じ建物の中で、片側で公共的な便益が配られ、もう片側で損失が発生している。
単純な善悪では切れない
この構造をどう評価するかは、この国の中でも長く議論が続いている論点だ。
批判の側は、ギャンブル依存の被害が特定の層に集中しやすいこと、そして損失を出しやすい人ほど所得が低い傾向があることを指摘する。地域の福祉が、その地域の困窮した人の損失で賄われているなら、再分配としては逆方向に働いている。
擁護の側は、クラブが提供している機能の実質を挙げる。安く食事ができる場所、高齢者が一人で行っても浮かない場所、子どもの遊び場がある場所。それらが商業ベースで維持できないことは事実で、代わりに何を財源にするのかという問いに、明確な答えは出ていない。
制度面では、機械の仕様や営業時間、キャッシュレス化、自己排除の仕組みなど、被害を抑えるための規制が段階的に議論・導入されてきた。ただし所管は州であり、州ごとに温度差がある。
在住者としての距離の取り方
実務的な話をすると、クラブは在住者にとって使い勝手のいい場所ではある。
外食費が高いこの国で、家族で行っても金額が読める。食料品の値段そのものが上がり続けている状況では、この予測可能性の価値は小さくない。多くのクラブが子どもの遊びスペースを持っている。会員になれば駐車場が使えたり、割引が効いたりする。地方の町では、まともに食事のできる場所がクラブしかない、ということも実際にある。
ゲーム機の一角に足を踏み入れなければ、そこは単に安い食堂だ。実際、多くの利用者はそう使っている。そして、その使い方をする人が多いほど、クラブの収入に占めるギャンブル比率は下がる。利用そのものが構造への態度表明になる、というのは少し出来すぎた話かもしれないが。
建物を読むと社会が見える
初めてクラブに入ったら、入り口からの動線を眺めてみてほしい。受付を抜けて、食堂へ向かう道と、機械のある一角へ向かう道が、どこで分岐しているか。壁で仕切られているのか、通り抜けざるを得ないのか。どちらに金をかけ、どちらを目に入れさせたいかが、間取りに出ている。
そして、その配置は州のギャンブル規制の歴史をほぼそのまま反映している。台数が多い州のクラブと、規制が厳しい州のクラブでは、建物の重心が明らかに違う。一つの施設の間取りから、州ごとの制度史が読める。
外食が高くて困っている在住者にとって、クラブは実用的な選択肢だ。同時に、この国が公共財の財源をどう調達しているかを、身体で理解できる場所でもある。安い夕食を食べながら、その安さの出どころを考えるくらいの視線は持っておいてもいいと思う。