あの赤黄ユニフォームは「ボランティア」だった——サーフライフセービングの社会的役割
オーストラリアのビーチで見かける赤黄の旗とユニフォーム。その担い手のほとんどはボランティアだ。年間延べ17万人以上(推定)が活動するこの組織が、オーストラリア社会に根を張る理由を探る。
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オーストラリアのビーチで、赤と黄色の旗が立っている範囲を「旗の間」と呼ぶ。遊泳推奨エリアだ。その旗を設置し、監視するのが「サーフライフセーバー」と呼ばれる人たちで、多くはボランティアだ。
給料は出ない。でも毎週末、波打ち際に立ち続ける。
1907年創設の伝統組織
Surf Life Saving Australia(SLSA)の創設は1907年。国土を海に囲まれ、泳ぎの文化が深いオーストラリアで、水難事故を減らすために市民が自発的に組織した。
現在の登録メンバーは約20万人(SLSA公式発表)。年間のレスキュー件数は数千件規模で、何万件もの「事故になりかけた状況」に介入している。
「Nippers」——子どものころから始まる
サーフライフセービングの独特な文化のひとつが「Nippers」プログラムだ。5〜13歳の子どもを対象にした週末活動で、泳ぎの訓練だけでなく、チームで働く精神や海の安全知識を教える。
「うちの子が3歳のころからNippersに連れて行っていた」と語る親は珍しくない。地域によっては、親も同時にボランティアとして参加し、世代をまたいだコミュニティが形成される。
土曜の朝、砂浜に集まる親子の光景は、都市部のビーチ沿いでは夏の定番だ。
競技としての側面
サーフライフセービングには競技大会がある。「サーフカーニバル」と呼ばれるイベントで、チームレース・個人レース・ビーチラグビーなどが行われる。選手として真剣に練習している若者が多く、競技と地域活動が一体化した組織になっている。
「スポーツをやりながら人の命を守る訓練もできる」という構造が、若者の継続的参加を支えている側面がある。
旅行者が知っておくべきこと
オーストラリアのビーチで泳ぐ際、「旗の外で泳がない」は基本ルールだ。サーフライフセーバーの監視範囲を外れると、流れが強い場所でも誰も助けに来られない。
ビーチによっては「無監視ビーチ」もある。国立公園内の人気の少ないビーチなどがそれにあたり、サーフライフセーバーが常駐しているとは限らない。
旅行者の溺死事故の多くは、監視外のビーチや旗の外で起きている(SLSA公式の注意喚起より)。
給料はなくても続く理由
なぜ無償で続けるのか、という問いに、ベテランのライフセーバーはこう答えることが多い。「誰かの命が助かった瞬間の感覚は、他で得られない」。
あるいはもっとシンプルに、「子どものころからこのクラブにいて、自分もここが地元だから」。
コミュニティへの帰属感と責任感が、報酬なしで200年近い歴史を動かしている。観光でビーチを訪れるとき、あの赤黄のユニフォームが背負っているものの重さを、少し意識してみてほしい。