ベジマイトを「まずい」と思うのは、塗り方が間違っているからだ
オーストラリア人の国民食ベジマイト。見た目は黒い粘土、味は強烈な塩味と酵母の旨味。外国人が100%失敗する食べ物の正しい攻略法と、なぜこれが国民的アイデンティティになったのかを解説する。
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外国人がベジマイトを初めて食べるとき、ほぼ全員が同じ間違いをする。パンにたっぷり塗る。
これはジャムやピーナッツバターの文法であり、ベジマイトの文法ではない。ベジマイトの正解は「バターを厚めに塗ったトーストに、ベジマイトを薄くこする」だ。量の感覚としては、トースト1枚に対してティースプーン半分以下。バターの脂肪がベジマイトの塩味と旨味を中和し、全体として「塩気のきいたバタートースト」になる。
これを知らずにスプーンですくってそのまま舐めた外国人は、100%の確率で「まずい」と言う。オーストラリア人はその反応を楽しんでいる節がある。
発酵残渣が国民食になるまで
ベジマイトの原料は、ビールの醸造過程で出る酵母の残渣(エキス)だ。ビタミンB群が豊富で、第一次世界大戦中にイギリスから輸入されていたマーマイト(類似品)が入手困難になったことを受けて、1922年にオーストラリアで開発された。
最初は売れなかった。1920〜30年代はマーマイトの方が人気で、ベジマイトは苦戦した。転機は第二次世界大戦中の軍の携行食への採用だ。兵士がベジマイトの味に慣れ、戦後に家庭に持ち帰った。以降、オーストラリアの朝食の定番として不動の地位を築いた。
現在、オーストラリアの家庭の約80%にベジマイトがあるとされる。年間の消費量は約2,300万瓶。人口が約2,700万人の国で、1人あたりほぼ1瓶のペースだ。
なぜアイデンティティになるのか
ベジマイトは食べ物以上の存在だ。
オーストラリア人に「オーストラリアらしいものは?」と聞くと、カンガルー、コアラ、ビーチと並んでベジマイトが出てくる。旅行先で会ったオーストラリア人がベジマイトをスーツケースに入れていた、という話は珍しくない。
この現象は、ベジマイトが「外国人には理解されない」ことと深く関わっている。外から見たら「なぜこれを好んで食べるのか」が不可解な食品だからこそ、内側の結束を強化する。日本人にとっての納豆、北欧のシュールストレミングと同じ構造だ。
「ベジマイトが好き」は、「自分はオーストラリア人である」という文化的表明に近い。逆に言えば、外国人がベジマイトを「おいしい」と言えたとき、オーストラリア人は本気で喜ぶ。
正しい食べ方ガイド
レベル1: クラシック。 トースト + バター + ベジマイト(薄く)。入門編にして最終形態。
レベル2: チーズトースト。 トーストにベジマイトを塗り、チーズをのせてグリルで焼く。塩味と旨味にチーズの脂肪が加わり、最もバランスが良い。オーストラリアの子どもが好きな食べ方。
レベル3: ベジマイト&アボカド。 トーストにアボカドを塗り、上からベジマイトをうっすら。メルボルンのカフェ的な食べ方。
レベル4: ベジマイト・スクロール。 パン生地にベジマイトとチーズを巻き込んで焼いたペストリー。ベーカリーの定番商品。1個3〜5AUD(約300〜500円)。
スーパーマーケットでは228gの瓶が約5AUD(約500円)。Woolworths、Colesどちらでも手に入る。
在住日本人の感想
ベトナムに住む日本人が最初はベトナム料理に戸惑うように、オーストラリアに住む日本人もベジマイトには最初戸惑う。しかし「正しい量で正しく食べれば、悪くない」という評価に落ち着く人が多い。味噌汁の感覚で「発酵食品の旨味」として捉えると、受け入れやすい。
逆に、日本に帰国した後に「ベジマイトが恋しい」と言い出す人もいる。味の記憶は、場所の記憶と結びつく。ベジマイトの味を思い出すたびにオーストラリアの朝を思い出す——そうなったら、もうオーストラリアに半分住んでいるのと同じだ。
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