カーリングの街——カナダの小さな町で氷の上が社交場になる
カナダには約1,000ヶ所のカーリングクラブがあり、その多くは人口数千人の小さな町にあります。冬の社交場としてのカーリングクラブが持つ文化的な意味を考えます。
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世界のカーリング競技人口の約80%がカナダ人です(World Curling Federation, 2023年推計)。オリンピックでは華やかなスポーツに見えますが、カナダの現場では全く違う光景があります。人口2,000人の町の公民館の地下に2シートのカーリングリンクがあり、火曜と木曜の夜にリーグ戦が行われる。参加者の平均年齢は55歳。試合後にビールを飲む時間の方が試合より長い。
カナダにおけるカーリングの位置
カナダ全土に約1,000ヶ所のカーリングクラブが存在します(Curling Canada公式)。これはアイスホッケーのリンク数に次ぐ規模です。
特にプレーリー地方(マニトバ、サスカチュワン、アルバータ)での密度が高い。サスカチュワン州では人口比あたりのカーリングクラブ数が世界一とされています。冬が長く、娯楽施設が限られる地域で、カーリングクラブは「冬に集まれる場所」として機能しています。
社交場としてのクラブ
カーリングクラブのラウンジ(通称「The Broom Closet」や「The Lounge」)は、試合後の飲食の場として地域のパブの役割を果たしています。
カナダのカーリング文化には「Broomstacking」という伝統があります。試合後、勝ったチームが負けたチームに飲み物を奢り、一緒にラウンジで飲む。勝敗に関わらず試合後に交流する文化が制度化されているスポーツは、世界的にも珍しいのではないでしょうか。
年間会費はクラブによって異なりますが、$200〜500(約22,400〜56,000円)程度が一般的。週1〜2回のリーグ戦に参加でき、ラウンジの利用も含まれます。
ボンスピール(Bonspiel)
カーリングのトーナメント形式のイベントを「ボンスピール」と呼びます。週末にかけて開催され、近隣の町からチームが集まります。
小さな町のボンスピールは、その町にとって年に数回の大きなイベントです。参加チームが地元のモーテルやB&Bに泊まり、バーで飲み、レストランで食事をする。カーリングが地域経済を回す仕組みがここにあります。
マニトバ州の「MCA Bonspiel」は世界最大級のカーリングトーナメントで、毎年約1,280チームが参加します。
日本人在住者とカーリング
カーリングは道具を最低限しか持たない状態で始められるスポーツです。クラブがストーン(1個約$500 / 約56,000円、花崗岩製)を保有しているため、参加者が用意するのは靴底がスライドするカーリングシューズ($100〜200 / 約11,200〜22,400円程度)くらいです。初心者はクラブの備品を借りられることが多い。
多くのクラブが秋に「Learn to Curl」プログラムを開催しており、未経験者が数回のセッションで基本を学べます。費用は$50〜100(約5,600〜11,200円)程度。
カーリングの良さは「運動能力よりも戦略性」にあることです。60代の経験者が20代の初心者に勝つことは珍しくない。体格や体力に関係なく楽しめるため、家族全員で参加しているケースも目立ちます。
氷の上のカナダ
ホッケーが「カナダの国技」なら、カーリングは「カナダのコミュニティ装置」です。
都市部ではフィットネスジムやクラフトビールバーが社交場になりますが、人口数千人のプレーリーの町では、カーリングクラブがその役割を担っています。木曜の夜に氷の上でストーンを投げ、試合後にビールを飲みながら天気と穀物の価格の話をする。
カナダの冬は長い。その長い冬を、氷の上で一緒に過ごす仕組みを持っていることが、この国の静かな強さのひとつなのかもしれません。