カナダでは子どもが生まれる前に保育所に申し込む——待機児童の国の現実
カナダの保育所不足は日本以上に深刻だ。トロントでは妊娠が判明した時点でウェイトリストに登録する親がいる。月額1,000〜2,000CADの保育料を払っても入れない構造の中身を見る。
この記事の日本円換算は、1CAD≒112円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CAD)の金額を基準にしてください。
トロントの保育所のウェイトリストは、平均2年。バンクーバーは1〜3年。つまり、子どもが0歳で入所するには、出産前——場合によっては妊娠がわかった直後に申し込む必要がある。日本の待機児童問題が「保育所落ちた」と嘆くのは入園申込後の話だが、カナダではそもそも順番待ちに並ぶまでが長い。
月額保育料の衝撃
カナダの保育料は州ごとに大きく異なる。トロント(オンタリオ州)で0歳児を認可保育所に預ける場合、月額は1,400〜2,000CAD(約156,800〜224,000円)。バンクーバー(BC州)は1,200〜1,800CAD。モントリオール(ケベック州)は政府補助のおかげで月額約200CAD(約22,400円)と桁違いに安い。
ケベック州のモデルは1997年に導入された「1日5ドル保育」(現在は約8.85CAD/日に値上げ)が原型だ。州が保育所に直接補助金を出し、親の負担を抑える仕組み。これによりケベック州の女性労働参加率はカナダで最も高くなった。他州からは「ケベックにだけ住みたい理由」として半ば冗談で語られるほどの差がある。
連邦の10ドル/日政策
2021年、トルドー政権は「10ドル/日保育」を公約に掲げ、2025〜2026年までに全国の認可保育料を平均10CAD/日(約1,120円/日)に引き下げる計画を発表した。連邦政府が各州に補助金を交付し、段階的に料金を下げていく仕組みだ。
2024〜2025年時点で、多くの州で認可保育料は半額程度まで下がっている。オンタリオ州では月額が1,000CAD以下になった施設も出てきた。ただし問題は「料金は下がったが空きが増えていない」ことだ。補助金で需要が増えた分、ウェイトリストはむしろ長くなったという報告もある。
保育士の給与問題
保育所が足りない根本原因の一つが、保育士の確保だ。オンタリオ州のECE(Early Childhood Educator、保育士)の平均時給は20〜25CAD(約2,240〜2,800円)。カナダの最低時給が15〜17CAD程度であることを考えると、責任と専門性に見合った水準とは言いがたい。
ECEの離職率は高い。小売業やオフィスワークの方が時給が高く、身体的負担も少ない。新規の保育所を建てても、そこで働く保育士がいなければ運営できない。建物の問題ではなく人の問題だ。
在住日本人の選択肢
カナダで子育てをする日本人家族にとって、保育所問題は移住後の最大のストレス要因の一つだ。現実的な選択肢を整理する。
認可保育所(Licensed Daycare): 最も安いが最も入りにくい。妊娠判明時にウェイトリストに登録する。複数の施設に同時申し込み可。
認可外保育(Home Daycare): 個人が自宅で運営する小規模保育。認可保育所より空きが見つかりやすいが、質のばらつきが大きい。月額は800〜1,500CAD程度。州の登録制度があるので、登録済みかどうかの確認は必須。
ナニー(住み込みまたは通い): フィリピン人のナニーを雇う家庭が多い。月額2,000〜3,500CAD+福利厚生。保育所より柔軟だが、雇用主としての義務(CPP・EI拠出、源泉徴収等)が発生する。
片親がフルタイムで育児: 保育料が月2,000CAD近い場合、共働きの片方の手取りが保育料で消えるケースがある。それなら一方が退職して育児に専念した方が経済的——この計算で離職する親(主に母親)は少なくない。
ケベック移住という選択
日本からカナダに移住する際、保育環境を最優先するならケベック州(モントリオール)という選択肢は検討に値する。保育料が月200CAD程度であれば、共働きの維持は容易だ。ただしケベック州はフランス語が第一言語であり、仏語の壁がある。英語だけで暮らせる範囲はモントリオールでも限定的だ。
保育と言語、どちらの障壁を選ぶか——カナダの子育ては、こういう二択を突きつけてくる。