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G7の国で200万人がフードバンクに並ぶ——カナダの食の矛盾

カナダは世界有数の農業大国でありながら、フードバンクの利用者は過去最高を更新し続けている。農地は余り、小麦を輸出し、その足元で食料不安を抱える人が増えている。この矛盾の構造を見る。

2026-05-10
カナダフードバンク食料問題インフレ貧困

この記事の日本円換算は、1CAD≒112円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CAD)の金額を基準にしてください。

カナダは世界第5位の農産物輸出国だ。小麦、菜種油、豚肉、レンズ豆——プレーリー3州(アルバータ・サスカチュワン・マニトバ)の穀倉地帯は世界の食料供給を支えている。その同じ国で、Food Banks Canadaの2024年報告書によれば、月間200万人以上がフードバンクを利用している。2019年比で約2倍。G7の中で最も急速にフードバンク利用者が増えた国になった。

食料がないのではない

カナダの食料自給率はカロリーベースで200%を超える(日本は約38%)。食べ物が足りないのではない。食べ物に手が届かない人が増えている。この区別は決定的に大切だ。

スーパーマーケットの棚には商品が溢れている。問題はその値札だ。2021年以降のインフレで、カナダの食料品価格は累積で約25%上昇した。牛乳1ガロン(約3.78L)が7〜8CAD(約784〜896円)、卵1ダースが5〜7CAD、鶏胸肉1kgが15〜20CAD。日本のスーパーと比較して、多くの品目で1.5〜2倍高い。

家賃がフードバンクに人を送り込む

フードバンク利用者の急増の最大の原因は、食料価格の上昇ではなく家賃の高騰だ。トロントの平均家賃は1ベッドルームで月2,500〜2,800CAD(約280,000〜313,600円)。バンクーバーも同程度。手取り月収の50〜60%が家賃に消える世帯は珍しくない。

残りの40〜50%で光熱費・交通費・通信費・保険を払うと、食費に回せる金額は数百ドルしか残らない。Food Banks Canadaの調査では、利用者の33%が「就労している」と回答している。仕事をしているのに食料を買えない——ワーキングプアの問題が食卓に直結している。

移民とフードバンク

カナダは毎年40〜50万人の永住権移民を受け入れている。この大量移民政策は経済成長に不可欠とされるが、到着直後の移民は収入が低い。言語の壁、資格の互換性問題、カナダでの職歴がないことによる就職困難。

フードバンク利用者の中で移民・難民が占める割合は増加傾向にある。食料支援が「移民統合のインフラ」として機能している現実がある。これは移民政策の失敗なのか、それとも過渡期の不可避なコストなのか。答えはまだ出ていない。

フードバンクの中身

カナダのフードバンクで配布される食品は、缶詰・パスタ・米・シリアル・豆類が中心だ。生鮮食品(野菜・果物・肉)は寄付量が少なく、手に入る頻度は週1回の訪問あたり1〜2品目程度。栄養バランスは偏りがちだ。

トロントのDaily Bread Food Bankは月間約27万人に食料を配布する北米最大級のフードバンクだ。倉庫を見ると、Loblaw(カナダ最大のスーパーチェーン)やMetroからの廃棄予定食品が大量に並んでいる。賞味期限が近い商品を売り場から外し、フードバンクに回す仕組みが制度化されている。食品ロス対策と食料支援が同時に動いている。

在住日本人とフードバンク

日本からカナダに渡航し、就労が安定するまでの期間にフードバンクを利用することは制度上可能だ。フードバンクは国籍やビザステータスに関わらず利用できるところが多い。ただし、利用にあたっての心理的ハードルは日本人にとって高いかもしれない。

知っておくべきは、カナダではフードバンクの利用にスティグマ(社会的烙印)は日本ほど強くないということだ。大学生、シングルマザー、退役軍人、移民——利用者の顔ぶれは多様で、「生活に困っているから使う」ことが社会的に受け入れられている。

フードレスキューという発想

Food Banks Canadaだけでなく、地域ごとに多数のフードレスキュー団体が活動している。Second Harvest(トロント)は飲食店や食品工場から余剰食品を回収し、シェルターや高齢者施設に配送する。年間の食品回収量は数万トン規模だ。

カナダの食料品廃棄量は年間推定3,500万トン以上(Value Chain Managementの推計)。これは全生産量の約30〜40%にあたる。一方でフードバンクに並ぶ人は200万人。この2つの数字が同じ国に存在している。矛盾ではなく、分配の構造の問題だ。

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