カナダガンはなぜ都市を占領したのか——移住しなくなった渡り鳥の逆襲
カナダガン(Canada Goose)は渡り鳥のはずだが、都市部に定住する個体が急増している。公園を糞で埋め、人を威嚇し、飛行機のエンジンに突っ込む。増えすぎた国鳥の問題。
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カナダの国名を冠した鳥、Canada Goose(カナダガン)。V字飛行で南へ渡る姿はカナダの秋の風物詩——だった。今やトロントの公園には年中居座り、芝生を糞で覆い、ジョギング中の人間を追いかける。渡り鳥が渡らなくなった。
定住型カナダガンの増加
本来、カナダガンは秋に南下し、春に北へ戻る渡り鳥だ。だが1960年代以降、都市部に定住する「resident population(定住型個体群)」が急増した。北米全体のカナダガンの個体数は推定500万〜700万羽。このうち都市定住型が増え続けている。
原因は人間が作った環境だ。芝生の公園は短い草(ガンの好物)が無限にあり、池や噴水は年中凍らず、天敵のコヨーテやキツネは都市に少ない。カナダガンにとって都市は「暖かくて餌が豊富で安全な場所」——渡る理由がない。
糞の問題
カナダガン1羽が1日に排泄する糞の量は約450g。100羽の群れがいる公園では、1日45kgの糞が芝生に追加される。公園のベンチ、歩道、ビーチが緑色の糞で覆われる。
糞にはサルモネラ菌やカンピロバクター等の病原菌が含まれる可能性がある。水辺の糞は水質を悪化させ、藻の異常繁殖を引き起こすこともある。
攻撃性
繁殖期(4〜6月)のカナダガンは攻撃的だ。巣に近づく人間に対して首を伸ばし、翼を広げて突進してくる。噛みつかれると青あざ程度の怪我をすることがある。
大学キャンパスでは「ガン注意」の看板が立ち、一部の企業はオフィスビルの入り口に近い巣を専門業者に移動してもらう。ウォータールー大学(オンタリオ州)では、キャンパス内のガンの巣をマッピングし、学生にガンのいないルートを案内するウェブサイトが学生プロジェクトとして作られた。
航空安全への脅威
2009年のUSエアウェイズ1549便(ハドソン川の奇跡)は、カナダガンの群れがエンジンに吸い込まれたことが原因だった。カナダガンは体重3〜6kgと渡り鳥の中では大型で、エンジンへの衝突(バードストライク)の被害が大きい。
カナダの空港ではバードストライク対策として、滑走路周辺の芝を長く伸ばす(ガンが好む短い芝を避ける)、猛禽類のデコイを設置する、レーザーポインターで追い払うなどの対策が取られている。
駆除はできないのか
カナダガンはMigratory Birds Convention Actで保護されているため、許可なく卵を壊したり個体を傷つけたりすることは違法だ。自治体は連邦政府の許可を得て、卵にオイルを塗って孵化を防ぐ(Egg Oiling)や、捕獲して別の場所に移す(Relocation)といった管理策を講じている。
トロント市は年間約$50,000(約560万円)をカナダガン管理に費やしている。それでも個体数は減らない。
人間が作った問題
カナダガンが「害鳥」になったのは、人間が都市に完璧な生息環境を作ったからだ。芝生の公園、人工池、ゴミ箱の残飯、天敵のいない安全地帯。カナダガンは合理的な判断をしただけだ——わざわざ数千キロ飛ぶより、ここにいた方が生存率が高い。
カナダの国名を冠した鳥が、カナダの都市で厄介者扱いされている。皮肉だが、この鳥の適応力はカナダ人以上にカナダ的かもしれない。寒さに強く、タフで、どこにでも住み着く。