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カナダは移民を「設計」する。ポイント制が示す国家戦略の論理

2024年のExpress Entry招待数は98,903件。1,200点満点の点数表で永住権が決まるカナダの移民制度は、国家が人材を選ぶシステムとしていかに機能しているかを読む。

2026-04-08
カナダ移民永住権Express EntryCRS

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カナダの永住権審査に「面接」はほぼない。書類と数字だけで結論が出る。年齢・学歴・語学力・職歴に点数を付け、上位から順番に招待状を送る。これは移民政策というより、国家規模の人材採用システムだ。

1,200点満点で人生が決まる

Express Entry(エクスプレス・エントリー)は、カナダの連邦政府が2015年に導入したオンライン移民管理システムだ。連邦熟練労働者プログラム(FSWP)、連邦熟練職人プログラム(FSTP)、カナダ経験クラス(CEC)という三つのルートを一元管理する。

システムの核心は**CRS(総合ランキングシステム)**と呼ばれる点数表だ。満点は1,200点。主な配点は以下の通り:

  • コアポイント(最大600点): 年齢・学歴・カナダでの就労経験・語学力(英語・フランス語)
  • 配偶者・パートナーファクター(最大40点): パートナーの学歴・就労経験・語学力
  • スキルトランスファビリティ(最大100点): 語学力×学歴、語学力×カナダ就労経験の組み合わせ加点
  • 追加ポイント(最大600点): 州推薦プログラム(PNP)への指名(600点)、カナダ国内の内定(50点)、フランス語能力(最大50点)

注目すべきは「年齢」への点数配分だ。20代後半でピークを迎え、30代から下がり始め、45歳以上はゼロになる。「若い労働者を優先して呼び込む」という国家意思がそのまま数字に反映されている。

2024年の実態:98,903件の招待

カナダ市民権・移民省(IRCC)のExpress Entry年次報告2024によると、2024年に発行された招待状(ITA)は合計98,903件だった。

内訳の特徴が示唆的だ:

  • CBS(カナダ経験クラスベース)ラウンド:43%
  • CEC(カナダ経験クラス)ラウンド:27%
  • フランス語話者優遇ラウンド:含む

招待を受けた申請者の91%が3年制以上の大学・高等教育機関の学位保持者で、最も多い行き先はオンタリオ州、次いでブリティッシュコロンビア州、アルバータ州の順だった。

「ラウンド」という仕組みも重要だ。カナダ政府は定期的に(多いときは週に1〜2回)プールの中から一定点数以上の申請者に一括招待を送る。招待が来た人だけが永住権申請に進める。ラウンドのカットラインは需給に応じて変動し、職種特化ラウンド(医療従事者、STEM職種など)では特定スキル保持者が優先される。

人工知能で移民を選ぶ国

この仕組みが日本の永住権制度と大きく異なるのは、「国家が主体的に人材を選ぶ」という発想だ。

日本の永住権は「一定年数在留すれば申請できる権利」として設計されている。国家側が積極的に「来てほしい人を指名する」という発想は薄い。

カナダのExpress Entryは逆の思想で動いている。ある年に医療従事者が不足すれば医療職種ラウンドを実施し、フランス語人口を増やしたければフランス語スコアの高い申請者ラウンドを実施する。移民政策を短期的な労働市場ニーズと整合させる仕組みだ。

農業・建設・IT・ヘルスケアなど分野ごとに異なるルートが設けられ、各州がPNP(州推薦プログラム)を通じて地域ニーズに合わせた人材を独自指名できる構造もある。連邦と州が分散して「欲しい人材」を競う設計になっている。

システムの外側にあるもの

ポイント制は一見公平に見える。同じ条件なら同じ点数が出るはずだからだ。しかし制度の設計そのものに埋め込まれた傾向がある。

英語・フランス語能力への高い配点は、アジア系移民には語学試験コスト(IELTS等)が実質的なハードルになりうる。年齢による点数逓減は30代後半以降の移民を不利にする。北米の学歴・職歴を持つ人(すでにカナダや米国で働いている人)はCECポイントで高得点を取りやすく、ゼロからカナダを目指す人との格差がある。

制度は透明だが、透明な制度が誰に有利かという話は別だ。

「欲しい人材リスト」で国家を運営する

フランスが移民を文化的同化の観点で論じるとき、ドイツが制度整備の遅れを嘆くとき、カナダは静かにポイントシステムを更新している。

移民問題が感情的議論になりやすい時代に、点数と招待数という数字でコントロールする仕組みは、効率的だとも言えるし、人間を数値化する冷たいシステムだとも言える。

どう評価するかはともかく、少なくともカナダは「国家として誰を招くか」に明確な意思を持って動いている。


主な参照データ: カナダ市民権・移民省「Express Entry年次報告2024」、カナダ政府公式サイト「CRS計算基準」(2024年版)

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