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カナダは1セント硬貨を廃止した——「端数を丸める国」の経済実験

2013年、カナダは1セント硬貨(ペニー)の流通を廃止した。現金決済の端数は5セント単位に丸められる。なぜペニーは消えたのか。その後の経済への影響を検証する。

2026-05-23
通貨経済金融政策

この記事の日本円換算は、1CAD≒112円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CAD)の金額を基準にしてください。

カナダのレジで$10.02の買い物を現金で払うと、$10.00に丸められる。$10.03なら$10.05に丸められる。1セント硬貨が存在しないからだ。2013年に流通を停止した。日本の1円玉に相当する硬貨がない国で、何が起こったか。

ペニーを殺した計算

2012年、カナダ政府は衝撃的な数字を発表した。1セント硬貨1枚の製造コストは1.6セント。作れば作るほど赤字になる硬貨だった。年間の損失は約$11 million(約12.3億円)。

原材料(鉄にニッケルメッキ)の高騰に加え、製造・流通・回収のコストが硬貨の額面を超えていた。1セント硬貨はもはや「お金」ではなく「損失」だった。

丸めのルール

現金決済の場合、合計金額の端数は以下のルールで5セント単位に丸められる。

端数丸め先
1〜2セント切り捨て
3〜4セント切り上げ(5セントへ)
6〜7セント切り捨て(5セントへ)
8〜9セント切り上げ(10セントへ)

カード決済の場合は丸めなし。$10.02はそのまま$10.02が引き落とされる。

消費者は損するのか得するのか

理論上、丸めは完全に対称だ。切り上げと切り捨ての確率は等しいので、長期的には損得ゼロに収束する。

だが実証研究は面白い結果を示した。マーケティングの世界では「$X.99」の価格設定が多い。$4.99は$5.00に丸められるため、現金客にとって$5.00と変わらない。$X.99の心理的効果が薄れるはずだが、実際にはカナダの小売業者は$X.99の価格設定を変えなかった。消費者心理は丸めルールより強い。

財布が軽くなった

ペニー廃止後、カナダ人の財布の重さが物理的に軽くなった。冗談のように聞こえるが、これは意図された効果の一つだ。

ペニーは受け取った後、ほとんど使われなかった。貯金箱に入れられ、引き出しの奥に溜まり、最終的にゴミになる硬貨——いわゆる「dead currency(死んだ通貨)」だった。カナダ造幣局は廃止までに約350億枚のペニーを製造したが、流通しているのはその一部で、大半は家庭の引き出しの中にあった。

他の国への波及

オーストラリアは1992年に1セント・2セント硬貨を廃止している。ニュージーランドも2006年に同様の措置を取った。カナダの成功例を受けて、アメリカでもペニー廃止の議論が定期的に起こるが、「リンカーン大統領の肖像が刻まれた硬貨を廃止するのは愛国心に反する」という感情論が根強く、実現していない。

在カナダ日本人への実用情報

  • 現金で払うときは丸めを意識する: 特に少額の買い物では端数が気になるかもしれないが、年間で数ドル程度の差にしかならない
  • ペニーを見つけたら: まだ法定通貨だ。銀行に持ち込めば額面で受け入れてくれる。ただし店舗での受け取りは義務ではない
  • カード払いなら関係ない: デビットカード、クレジットカード決済では丸めは発生しない

1円玉がなくなった世界。最初は違和感があるが、1ヶ月もすると「なぜ他の国にまだ1セント硬貨があるのか」の方が不思議に思えてくる。

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