カナダの軍と平和維持——「戦わない国」というイメージの裏側
カナダ軍の実態と平和維持活動の歴史を在住外国人の視点で解説。「平和国家」としてのカナダのイメージと現実のギャップ、カナダ社会における軍の位置づけ。
この記事の日本円換算は、1CAD≒110円で計算しています(2026年4月時点)。
カナダといえば「平和な国」「多文化共生」「礼儀正しい人々」——そういうイメージが先行する。ではカナダ軍について何か知っているかと問われると、多くの外国人は言葉に詰まる。
「カナダって軍隊あったっけ?」。在住者からもそう聞かれることがある。
カナダは確かに戦ってきた
カナダは第一次・第二次世界大戦でともに戦い、朝鮮戦争にも参加した。ナチスドイツからオランダを解放した軍の中にカナダ軍がいたことは、オランダでは今も感謝の気持ちとして語り継がれている(毎年チューリップをオタワに贈る慣行がある)。
現在のカナダ軍(Canadian Armed Forces)の正規兵力は約6万8,000人(2024年時点)。人口比で見ると米英より少ないが、「軍がない国」ではない。
NATOの加盟国として、カナダはラトビアへの派兵など欧州の安全保障にも貢献している。ウクライナ紛争以降、NATO内でのカナダの役割はより積極的になってきた。
平和維持活動のパイオニア
カナダが国際社会で「平和」と結びつく理由のひとつは、1950年代の国連平和維持活動への貢献にある。1957年にカナダの外交官レスター・ピアソンはノーベル平和賞を受賞した。スエズ危機(1956年)の際に国連緊急軍の派遣を提案し、外交的解決に貢献したことへの評価だ。
「国連PKO(平和維持活動)の父はカナダ」という文脈は今もカナダの国際的なアイデンティティの核にある。
ただし近年、カナダの国連PKOへの参加人数は減少傾向にある。冷戦後の複雑な紛争地への対応が難しくなったこと、国内の軍への資金配分の問題がある。
在住外国人が感じる「軍」の存在感
カナダでは軍人への社会的敬意が日常的に見える。空港で軍の制服を着た人が列を詰めると、周囲の人が道を空ける光景がある。11月11日の「リメンブランス・デー(戦没者追悼記念日)」は国民的な行事で、赤いポピーを胸につけることが慣習化している。
赤いポピーを付けずに11月11日前後を過ごしていると、意図せず「知らない外国人」と映ることがある。在住者として最低限知っておきたい慣習のひとつだ。
「平和国家」と「現実」の間
日本人が「カナダ=平和国家」と感じるのは、カナダが国際問題に対してアメリカほど強硬な軍事行動を取らない傾向があることも影響している。イラク戦争(2003年)ではアメリカの要請を断って参加しなかった。
だからといって軍事的な存在を否定しているわけでもない。カナダは現実的な安全保障政策を持つ国家として、特にロシア・中国の動向に対して敏感な立場を取り始めている。
「礼儀正しくておだやかな人たち」が、必要があれば戦う準備のある軍を持っている。この二面性を理解してはじめて、カナダという国が少し立体的に見えてくる。