カナダの処方薬は「無料」ではない——州ごとに違う薬代負担の実態と節約法
カナダの医療は無料だが処方薬は別。州ごとに異なるPharmacareプログラム、雇用主保険、薬代を抑えるためのジェネリック活用法を在住者向けに解説。
この記事の日本円換算は、1CAD≒112円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CAD)の金額を基準にしてください。
「カナダの医療は無料」と聞いて来た人が最初に驚くのが、薬局で処方薬の代金を請求される瞬間だ。カナダの公的医療保険(Medicare)は医師の診察と入院はカバーするが、処方薬は原則としてカバーしない。
G7の中でユニバーサルな処方薬カバーを持たない唯一の国がカナダだ。この穴を埋めるのが、州ごとのPharmacareプログラムと雇用主提供の民間保険になる。
州ごとに違うPharmacareの仕組み
BC州(BC PharmaCare): 世帯所得に応じた自己負担制(Fair PharmaCare)。年間所得の一定割合を超えた薬代を州がカバーする。低所得世帯は自己負担がゼロになるケースもある。
オンタリオ州(OHIP+): 25歳未満の若者は処方薬が無料。それ以外はOntario Drug Benefit(ODB)で65歳以上・生活保護受給者をカバー。25〜64歳で雇用主保険がない人は自己負担だ。
ケベック州: 公的処方薬保険への加入が義務。雇用主保険がない場合、州の公的プランに自動加入し、保険料がケベック州の所得税申告に含まれる。最大$731/年(約8.2万円)の保険料がかかる。
アルバータ州: 所得に応じた公的プログラム(Alberta Blue Cross Non-Group Coverage)がある。保険料は月$63.50〜$118.50(約7,100〜1.3万円)程度。
雇用主保険がカバーするもの
フルタイムの正社員であれば、多くの企業が福利厚生(Benefits)として処方薬保険を提供している。カバー率は80〜100%が一般的。ただし、すべての薬がカバーされるわけではなく、保険会社の「Formulary(薬剤リスト)」に載っている薬だけが対象だ。
契約社員・パートタイム・ギグワーカーは雇用主保険がないことが多い。ワーキングホリデーの人も同様だ。この層が処方薬代の負担を最も感じる。
処方薬の費用を抑える方法
ジェネリック医薬品を指定する: カナダではジェネリック(Generic)の使用率が高い。医師や薬剤師にジェネリックを希望すると伝えれば、多くの場合切り替えてもらえる。価格差は大きく、ブランド薬の30〜80%程度安くなる。
Costcoの薬局を使う: カナダのCostcoは、会員でなくても薬局だけは利用できる(法律で薬局利用に会員資格を要求できないため)。処方薬の調剤費(Dispensing Fee)がCostcoは$4.49と、他の薬局より大幅に安い。
複数の薬局で見積もりを取る: 処方薬の価格は薬局によって異なる。特にDispensing Fee(調剤費)は薬局が独自に設定できるため、$5〜$15の差がある。
Mark Cuban Cost Plus Drug Company: アメリカ発のオンライン薬局だが、カナダ在住者が利用するケースもある(一部の薬のみ)。製造原価に15%のマージンを乗せるだけという透明な価格設定で注目されている。
連邦レベルの処方薬保険の行方
連邦政府はCanada Pharmacare Act(2024年成立)で、避妊薬と糖尿病治療薬のユニバーサルカバーを開始した。しかし全処方薬をカバーするユニバーサルPharmacareの実現にはまだ距離がある。州との管轄争い、財源の問題、民間保険業界のロビー活動が絡み合い、進捗は遅い。
カナダで暮らすなら、「医師の診察は無料だが、処方された薬は自分で払う可能性がある」という前提で生活設計を組む必要がある。雇用主保険の有無は、給与額面と同じくらい仕事選びで確認すべきポイントだ。