ケベックの世俗主義法(Bill 21)——「顔を見て働く」を義務化した社会の論争
2019年、ケベック州は公務員の宗教的シンボル着用を禁止するBill 21を可決した。ヒジャブ・ターバン・十字架が対象だ。多文化主義vs.世俗主義——カナダ国内の分断線を解説する。
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「先生がヒジャブをつけて授業をしてはいけない」——これがカナダの一つの州で起きている話だと聞けば、驚く人もいるだろう。
ケベック州が2019年に可決した「Bill 21(Act Respecting the Laicity of the State)」はまさにそういう法律だ。
Bill 21の内容
Bill 21は、教師・警察官・裁判官・公共交通職員などの公務員が職務中に宗教的シンボルを身に着けることを禁止する法律だ。ヒジャブ(イスラム教女性の頭部覆い)、シク教のターバン(ダスタール)、大きなキリスト教の十字架、ユダヤ教のキッパーなどが対象になる。
既に雇用されている公務員は「祖父条項」で適用除外だが、新規採用者には適用される。
ケベックの「世俗主義」の歴史
ケベック州が世俗主義にこだわる背景には、1960年代の「静かな革命(Révolution tranquille)」がある。カトリック教会が長年にわたってケベック社会を支配してきた歴史への反省から、1960年代に教育・医療・行政の分野で教会と国家を分離する改革が進んだ。
「国家の中立性=公的空間での宗教性の排除」という価値観がケベックでは強く、フランスの laïcité(ライシテ)に近い。
連邦政府・他州との対立
Bill 21はカナダの多文化主義政策とほぼ真っ向から対立する。連邦政府のトルドー首相はこの法律を個人的に反対すると表明しながら、州権との兼ね合いで連邦が直接介入しないという立場をとった。
オンタリオ州・BC州は多文化主義的価値観が強く、Bill 21はそこでは支持されにくい。カナダの「多文化主義」と「ケベックの世俗主義」の衝突は解消されていない。
実際に起きていること
Bill 21の施行後、ヒジャブを着用したいムスリム女性教師が職を失ったり、採用されなかったりする事例が報告されている。
英語圏のモントリオール市内の学校(英語教育委員会管轄)はケベック州政府と争い、適用に抵抗しているケースもある。
在留外国人として知っておくこと
ケベック州に住む外国人が個人的にヒジャブや宗教的シンボルを着用することは規制対象ではない。一般市民への制限はない。
ただし州政府・公立学校などの職に就こうとする場合は適用される。就職先の性格によって影響が出うるということを理解しておく必要がある。