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牛乳カルテル——カナダの乳製品が高い構造的理由

カナダの牛乳は日本よりも高い。その原因は供給管理制度(Supply Management)という独自の農業保護政策にあります。制度の仕組み、消費者への影響、政治的背景を解説します。

2026-05-13
供給管理乳製品食料品価格

この記事の日本円換算は、1CAD≒112円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CAD)の金額を基準にしてください。

カナダのスーパーマーケットで牛乳4リットルを買うと、約$6.50 CAD(約728円)します。日本で牛乳1リットルが200〜250円とすると、4リットル換算で800〜1,000円。カナダの方が少し安いように見えますが、カナダの食料品全般が安い(特に肉類)ことを考えると、乳製品の価格は相対的にかなり高い。チーズに至っては、同じブランドの同じ製品がアメリカの2〜3倍の価格で売られていることがあります。

その原因は「Supply Management(供給管理)」です。

Supply Managementとは

カナダの供給管理制度は、乳製品、鶏卵、鶏肉、七面鳥に適用される農業保護政策です。1970年代に導入され、以下の3つの柱で構成されています。

生産割当(Production Quota): 農家は「クオータ」と呼ばれる生産権を保有し、クオータの範囲内でのみ生産が認められます。新規参入者がクオータを取得するには既存の農家から購入する必要があり、乳牛1頭分のクオータの価格は$30,000〜40,000 CAD(約336万〜448万円)とも言われています。

価格設定: 生産コストに基づいて最低価格が設定されます。農家が赤字にならない価格が保証されるため、政府からの補助金は不要(ここがアメリカやEUとの大きな違い)。

輸入関税: 海外からの乳製品の輸入には高率の関税が課されています。バターの関税は298%。チーズは245%。この関税障壁が、国内価格を国際価格から切り離しています。

消費者の負担

カルガリー大学の2018年の研究では、供給管理制度によりカナダの家庭は年間約$300〜600 CAD(約33,600〜67,200円)を余分に支払っていると推計されています。低所得世帯ほど食費に占める乳製品の比率が高いため、逆進的な負担構造になっています。

スーパーマーケットで日常的に見る価格差の一例です。

品目カナダアメリカ
バター 1ポンド(454g)$5.50〜7.00 CAD(約616〜784円)$3.50〜4.50 USD
チェダーチーズ 400g$7.00〜10.00 CAD(約784〜1,120円)$4.00〜6.00 USD

政治的に触れられない理由

供給管理制度は、カナダの政治において「聖域」です。自由党も保守党も、選挙のたびに「供給管理を維持する」と公約します。

理由はシンプルで、乳製品農家がケベック州とオンタリオ州に集中しており、この2州はカナダの連邦選挙で最も議席数が多い(合計で全338議席中約200議席)。農家票を失うリスクを取る政党はありません。

USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定、2020年発効)の交渉でも、アメリカはカナダの供給管理の撤廃を要求しましたが、カナダは一部の市場アクセス拡大(乳製品市場の約3.6%を開放)にとどめ、制度自体は維持しました。

日本人在住者の実感

日本から来ると、カナダのチーズの高さに驚きます。アメリカとの国境近くに住んでいる人が、わざわざ越境してアメリカのスーパーで乳製品を大量購入して持ち帰る(Cross-Border Shopping)のは珍しい行動ではありません。

バッファロー(ニューヨーク州)とナイアガラフォールズ(オンタリオ州)の国境では、週末にカナダのナンバープレートの車がアメリカ側のWalmartに列をなしている光景が見られます。

供給管理は農家を守り、消費者に負担を課す制度です。良い悪いの判断は立場によって変わりますが、カナダの食料品価格がなぜ高いのかを理解するには避けて通れないテーマです。

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