カナダの税制——連邦税+州税の二重課税と、海外所得の申告義務
カナダは連邦税(15〜33%)と州税(8〜21%)が重なる二重課税構造。RRSPやTFSAの節税効果、日加租税条約の適用、Non-Residentからの税務ステータス変更まで整理する。
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カナダで働いている人がまず驚くのは、給与明細の税引き後の手取り額だ。連邦税と州税が重なり、年収$100,000(約1,100万円)の場合でも実効税率が30〜40%前後になることがある。日本(国税+住民税の合計で最高約55%)と似た構造だが、州によって大きな差がある。
連邦税率:15〜33%の累進課税
2024年課税年度のカナダ連邦所得税は以下の5段階。
| 課税所得(CAD) | 税率 |
|---|---|
| $55,867以下 | 15% |
| $55,868〜$111,733 | 20.5% |
| $111,734〜$154,906 | 26% |
| $154,907〜$220,000 | 29% |
| $220,001以上 | 33% |
これに加えて州税が乗る。
州税:州によって税率と構造が異なる
州によって税率が大きく違う。
| 州 | 最高税率 | 特徴 |
|---|---|---|
| アルバータ州 | 15% | 最も低い州税 |
| オンタリオ州 | 13.16% | カナダ最大の州 |
| ケベック州 | 21.25% | カナダで最も高い |
| ブリティッシュコロンビア州 | 20.5% | バンクーバーを含む |
連邦+州を合算した最高税率で比較すると、アルバータ州は約48%、ケベック州は約54%と差が大きい。ケベック州は独自の社会制度(医療・教育含む)を維持するため、州税が高い構造になっている。
居住者(Resident)と非居住者(Non-Resident)の違い
カナダの税制では、「カナダ居住者かどうか」が申告義務の根本を決める。
居住者(Resident)は全世界所得をカナダで申告する義務がある。非居住者(Non-Resident)はカナダ源泉所得のみ申告。
カナダに引っ越す(移住・永住・ワーホリで長期滞在)場合、税務上の居住者になる時点を明確にする必要がある。居住者認定の基準はIRSのような機械的なルールではなく、「生活の中心がカナダにあるか」という事実認定で判断される。住居、配偶者・子の所在、銀行口座、運転免許、社会保険番号(SIN)の取得などが判断材料になる。
日本からカナダへ移住する際には、日本での税務上の住所を整理(日本を出た時点で非居住者申告)してからカナダ居住者となるのが一般的な流れだ。
RRSP——最強の節税ツール
**RRSP(Registered Retirement Savings Plan / 登録退職貯蓄制度)**はカナダ独自の節税制度で、日本の確定拠出年金(iDeCo)に近い仕組みだ。
拠出した金額はその年の課税所得から控除される。年間の拠出上限は「前年の課税所得の18%」で、上限額は2024年で$31,560(約347万円)。
引き出し時には所得として課税されるが、退職後(低所得時)に引き出すことで、現役時代より低い税率を適用できる。複利運用と税率差の組み合わせが節税効果の源泉だ。
重要な点: 引き出し時は源泉徴収されるが、翌年の確定申告で精算される。またRRSPの残高は原則として71歳までに引き出すか、RRIF(Registered Retirement Income Fund)に転換する必要がある。
TFSA——非課税の万能口座
**TFSA(Tax-Free Savings Account / 非課税貯蓄口座)**はRRSPと並ぶカナダの個人向け節税制度。
特徴はシンプルだ。TFSA内での運用益(株式・ETF・債券等)は非課税。引き出しも非課税。拠出時の所得控除はない。
2024年の年間拠出上限は$7,000(約77万円)。過去に積み上がった未使用枠があれば追加で拠出できる。ただしカナダ居住者(18歳以上)として過ごした年数分だけ枠が積み上がるため、移住してすぐは使える枠が限られる。
| 比較項目 | RRSP | TFSA |
|---|---|---|
| 拠出時の所得控除 | あり | なし |
| 運用益への課税 | なし(引き出し時に所得課税) | なし |
| 引き出し時の課税 | あり(所得として課税) | なし |
| 年間上限(2024年) | 前年所得の18%(上限$31,560) | $7,000 |
FHSA——首都圏の住宅購入者向けの新制度
**FHSA(First Home Savings Account / 初回住宅貯蓄口座)**は2023年に導入された新制度。初めて住宅を購入する人(過去4年間に所有経験がない)が対象。
年間$8,000(約88万円)、生涯上限$40,000(約440万円)まで拠出でき、拠出額は所得控除になり、住宅購入に使えば非課税で引き出せる。RRSPとTFSAの両方の特徴を住宅購入という目的に特化させた制度だ。
バンクーバー・トロントの住宅価格が高騰する中で若い世代の購入支援として機能している。
T1申告の流れ
カナダの個人確定申告書はT1 General。申告期限は毎年4月30日(自営業の場合は6月15日。ただし納税は4月30日まで)。
確定申告はTurboTax CanadaやH&R Block Canadaなどのソフトウェアを使って自分でできる。日本語サポートはないが、UIは直感的で、基本的な給与所得のみの場合は難しくない。収入が複雑(自営・投資・複数の所得源)な場合は会計士(Accountant)への依頼が現実的だ。
雇用主から送られてくる**T4(給与明細の年次版)**と、金融機関からのT5(利子・配当)等のスリップを揃えて申告する。
日加租税条約の活用
日本とカナダの間には租税条約(Tax Treaty)がある。主なポイント:
- 日本からの年金: 日本の年金をカナダで受け取る場合、源泉地国(日本)での課税が制限される
- 配当: 相互の源泉徴収税率が軽減(15%→条約適用で低減)
- 二重課税の回避: 同一所得が両国で課税される場合に、外国税額控除(Foreign Tax Credit)で調整
移住当初や帰国時の「どちらの国の居住者か」が微妙な期間は、二重申告が必要になるケースもある。移住・帰国のタイミングに合わせた税務相談を税理士(Tax Advisor)に依頼する価値がある。
参考: Canada Revenue Agency(CRA)「Individual Income Tax Rates」、CRA「RRSP Contribution Room」、CRA「TFSA Contribution Limit」、CRA「FHSA(First Home Savings Account)」、財務省「日加租税条約テキスト」