マイナス20度でも自転車通勤する人がいる——カナダの冬サイクリング文化
モントリオールには冬季でも通年利用可能な自転車レーン網がある。除雪車が自転車道を優先的に除雪し、スパイクタイヤで通勤する人がいる。極寒の都市に自転車インフラを整備する合理性とは何か。
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モントリオールの1月の平均気温はマイナス10度。最低気温がマイナス25度を下回る日もある。この都市で、冬も自転車通勤をしている人がいる。奇人ではない。モントリオール市は通年利用可能な自転車レーンを180km以上整備しており、冬季の除雪優先リストに自転車道を入れている。車道より先に自転車道の雪を除くこともある。
なぜ寒い街が自転車都市なのか
カナダで最も自転車利用率が高い都市は、意外にもモントリオールとオタワだ。バンクーバーの方が気候は温暖だが、自転車インフラの整備度ではモントリオールが圧倒している。
理由は複数ある。モントリオールはヨーロッパ(特にオランダ・デンマーク)の自転車都市をモデルにした都市計画を2000年代後半から進めてきた。BIXI(バイクシェアリング)を2009年に導入し、北米初の大規模バイクシェアとして注目を集めた。BIXIは現在約1万台の自転車と約800のステーションを持つ。
冬用装備の実際
マイナス20度で自転車に乗るには装備が必要だ。
スパイクタイヤ: 冬用自転車タイヤはスタッドが埋め込まれており、氷の上でもグリップする。1本80〜150CAD(約8,960〜16,800円)。前後で160〜300CAD。年に1回交換する場合、車のスタッドレスタイヤ(4本で600〜1,200CAD)よりはるかに安い。
防寒着: ウィンドブレーカー、バラクラバ(目出し帽)、防水グローブ、スキーゴーグルが必須装備。自転車で走ると体感温度は実際の気温よりさらに5〜10度低くなる。マイナス20度の日はマイナス30度の体感だ。
フェンダー(泥除け): 融雪剤と泥水が跳ね上がるので、フェンダーなしで走ると背中が塩だらけになる。シンプルだが見落としがちな装備。
コスト比較——自転車 vs 車 vs 公共交通
モントリオールでの年間交通コストを比較すると、自転車の経済合理性がはっきり見える。
車の維持費(ローン・保険・ガソリン・駐車場・メンテ)は年間8,000〜12,000CAD(約89.6万〜134.4万円)。公共交通(STMのマンスリーパス)は月額97CAD、年間1,164CAD(約130,400円)。自転車(本体の減価償却・メンテ・冬タイヤ)は年間500〜1,000CAD(約56,000〜112,000円)。
BIXIの年間パスは100CAD(約11,200円)。自分の自転車すら持たずに年間100CADで通勤できる計算だ。ただしBIXIは冬季(12月〜4月中旬)は運休する。通年で自転車通勤するなら自前の自転車が必要になる。
トロントとバンクーバーの事情
トロントは自転車インフラの整備がモントリオールより10年遅れている。2020年のCOVID-19パンデミック中に一気に仮設自転車レーンを設置したが、恒久化されたのは一部にとどまる。ダウンタウンのBloor Streetの自転車レーンは政治的論争を経てようやく定着した。
バンクーバーは雨が多い(年間降水日数約160日)ため、冬の自転車通勤は寒さよりも濡れとの戦いだ。レインウェアの性能がモノを言う。ただし氷点下になることは稀で、スパイクタイヤは不要。気候的には年間を通じて自転車に乗りやすい都市だが、坂が多い地形がハードルになっている。
在住日本人と自転車
カナダで自転車を買う場合、Canadian Tire(ホームセンター)で200〜500CAD、自転車専門店で800〜2,000CADが目安。中古はFacebook Marketplaceで100〜300CADで見つかる。
ヘルメットの着用義務は州によって異なる。BC州は全年齢で義務化。オンタリオ州は18歳未満のみ。ケベック州は義務なし。ただし義務がなくてもヘルメットの着用は強く推奨されている。
日本の感覚で歩道を走ると違法になる。カナダでは自転車は車両扱いで、原則として車道か自転車レーンを走行する。右側通行。一時停止標識(STOP sign)での完全停止も義務。違反チケットは100〜500CADだ。
マイナス20度で自転車に乗るかどうかは個人の選択だが、「カナダの冬=車がないと暮らせない」は必ずしも正しくない。少なくともモントリオールでは。