職業訓練制度(ベルーフスビルドゥング)——スイスの若者の70%が選ぶ大学に行かない道
スイスでは高校卒業後に大学進学を選ぶ若者は約30%。残り70%は職業訓練(Berufsbildung)に進む。この制度の仕組みと、日本の感覚との違いを解説。
この記事の日本円換算は、1CHF≒175円で計算しています(2026年4月時点)。
スイスの若者の約70%は、高校を出ても大学に行かない。これは怠惰や経済的事情ではなく、社会が設計した選択肢だ。
「Berufsbildung(ベルーフスビルドゥング)」——職業形成という名の訓練制度は、スイスの労働市場と教育の中核にある。3〜4年間、企業で実務をこなしながら週1〜2日は職業学校(Berufsschule)に通う。給与をもらいながら資格を取る仕組みで、訓練中の月収はCHF 600〜1,500(約10.5万〜26.3万円)程度が相場だ。
200種以上の職種で使える
対象となる職種は200種以上ある。時計職人・大工・料理人・IT技術者・銀行員まで幅広く、どれも国が認定した正式な資格だ。訓練を終えると「連邦職業能力証明書(EFZ)」または「連邦職業能力証明書(EBA)」を取得できる。
EFZを持つ職人が、大企業の管理職になるケースも珍しくない。スイスでは職業訓練修了者がキャリアの上限に当たる壁がなく、後から大学相当の職業高等学校(Berufsmaturität)を経由して専門大学(Fachhochschule)に進む道も開かれている。
「大学に行かないのは負け」ではない
日本では「高校→大学→就職」のルートが正統とされる空気がある。スイスにはそれがない。
首相を含む政治家・大企業CEOに職業訓練出身者が多い。企業側も「EFZ保持者は即戦力」と明確に評価し、採用に際して大卒との差別は少ない。スイスが製造業・金融・テクノロジーで高い競争力を維持できる理由の一つが、この実務型人材の厚みだ。
外国人の子どもはどうなる
スイスに在住する外国人の子どもも、この制度を使える。ただし言語の壁が高く、ドイツ語(チューリッヒ周辺)・フランス語(ジュネーブ・ローザンヌ周辺)・イタリア語(ティチーノ)のいずれかで訓練を受ける必要がある。
子どもが中学年(12〜14歳)でスイスに移住した場合、言語習得と並行して職業訓練の準備をするのが現実的な選択肢になる。インターナショナルスクールに通わせながら大学進学ルートを維持する家庭も多いが、費用は年間CHF 30,000〜40,000(約525万〜700万円)かかる。
どちらが「正解」かより、子どもの適性と将来の目標に合わせてルートを選ぶ——それがスイス式の考え方だ。