スイスで子どもを預けると月50万円——保育料が家計を直撃する構造
スイスの保育料(Kita)は世界最高水準。共働き家庭が直面する保育コストの現実と、なぜ改善されないのかの構造的な理由を掘り下げる。
この記事の日本円換算は、1CHF≒170円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(CHF)の金額を基準にしてください。
スイスの保育料は、OECD加盟国の中で最も高い部類に入る。チューリッヒで子ども1人を週5日Kita(保育所)に預けると、月額2,000〜3,000CHF(約340,000〜510,000円)。2人預ければ月60万〜100万円。共働きでも片方の給料がほぼ保育料で消える、という話は珍しくない。
なぜこんなに高いのか
理由はいくつかある。
人件費: スイスの保育士の給料は月4,000〜5,500CHF(約680,000〜935,000円)。これでもスイスの平均収入を下回るが、絶対額としては高い。保育は人手が必要な仕事なので、人件費がそのまま保育料に反映される。
配置基準: 0歳児は保育士1人につき子ども3人まで、といったカントンごとの配置基準がある。手厚い分、コストが上がる。
公的補助の少なさ: 日本の認可保育園は国と自治体が大幅に補助しているが、スイスでは保育への公的補助が限定的だ。連邦レベルの統一制度がなく、カントンやGemeindeによって補助の有無や金額がバラバラ。補助があっても保育料の一部をカバーする程度で、全額補助はほぼない。
「働かない方が合理的」という逆説
保育料が高すぎる結果、共働き夫婦の一方(多くの場合女性)が「働くのをやめた方が家計にプラス」という結論に至ることがある。
スイスの女性の労働参加率は高いが、パートタイム率も高い。週60〜80%勤務が一般的で、「フルタイムで働くと保育料で赤字になるから、週3〜4日にする」という選択が合理的になっている。
これは個人の選択の問題ではなく、制度設計の問題だ。保育への公的投資が少ないことが、結果として女性のフルタイム就労を阻んでいる。
改善の動きはあるが遅い
2023年にスイス連邦議会は保育補助の増額を議論したが、財源の問題で合意に至っていない。「保育は家庭の責任」という伝統的な考え方が、特に保守系の政党に根強い。
一方、チューリッヒやバーゼルなど都市部のGemeindeは独自に補助を拡充しつつある。チューリッヒ市では所得に応じた段階的な保育料補助があり、低所得世帯は大幅に減額される。ただし中間所得層には恩恵が薄い。
在住日本人の選択肢
日本人駐在員の場合、企業が保育費の一部を負担してくれるケースもある。赴任前に確認しておくべきポイントだ。
現地採用の場合は自力で支払うことになる。Gemeinde の補助を申請する、パートタイムにして保育日数を減らす、祖父母に来てもらう——いろいろな工夫で乗り切っている家庭が多い。
待機児童問題もある。特にチューリッヒやジュネーブの人気エリアでは、Kitaの空きが数ヶ月〜1年待ちということもある。妊娠がわかったらすぐにウェイティングリストに登録する——これがスイス在住の親の常識だ。
スイスの保育コストは、この国の矛盾を映し出している。世界で最も豊かな国の一つでありながら、子育て世代が最も経済的に苦しいという逆説。解決には時間がかかりそうだが、議論は少しずつ前に進んでいる。