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スイス人が「静けさ」をインフラだと考える理由

日曜日の洗濯禁止、22時以降のシャワー制限、芝刈り機の使用時間——スイスの騒音規制の背景にある「静けさ=公共財」という発想を読み解く。

2026-05-15
文化騒音日曜日法律生活

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スイスに住み始めてまず驚くのは、日曜日に洗濯機を回しただけで隣人から苦情が来ることだ。大げさではなく、多くのアパートの「Hausordnung(住居規則)」に「日曜・祝日は洗濯機・乾燥機の使用禁止」と明記されている。

静けさには時間割がある

スイスの騒音規制は、ざっくり言えばこうだ。

  • 昼間の休息時間(Mittagsruhe): 12:00〜13:00は静かにする
  • 夜間(Nachtruhe): 22:00〜翌7:00は騒音を出さない
  • 日曜・祝日: 終日、騒音を出す活動は控える

芝刈り機、電動ドリル、掃除機——日本では「常識の範囲で」使えるものが、スイスでは明確に時間帯が決まっている。違反すると警察に通報されることもある。

なぜここまで厳しいのか

理由は「静けさを公共財(Gemeingut)として扱っている」からだ。

日本では騒音は「迷惑行為」として処理される。つまり個人間のトラブルだ。一方スイスでは、静けさは道路や公園と同じカテゴリに入る。みんなで維持するものであり、誰かが壊したら全員が損をする。

この発想は、スイスの直接民主制とも通底している。共有資源の使い方を住民自身が決める——Gemeinde(市区町村)ごとに細かいルールが違うのはそのためだ。

日本人が引っかかるポイント

実際に住んでみると、いくつか「えっ」となる場面がある。

入浴の時間制限: アパートによっては22時以降のシャワーやバスタブの使用を制限している。水の流れる音が配管を通じて他の部屋に響くからだ。日本の感覚だと「風呂くらい好きな時間に入らせてくれ」と思うが、スイスではそうはいかない。

子どもの遊び声: 昼間は許容されるが、Mittagsruheの時間帯は子どもも静かにする必要がある。公園でも例外ではない地域がある。

ペットの鳴き声: 犬の無駄吠えが続くと近隣から正式な苦情が入り、最悪の場合はGemeindeから指導が来る。

慣れると「合理的だ」と思えてくる

最初は窮屈に感じる。しかし数ヶ月も暮らすと、このルールの恩恵を実感する場面が増える。

日曜日の朝、窓を開けると本当に静かだ。工事音も芝刈り機の音もない。鳥の声と風の音だけが聞こえる。東京で暮らしていた時には考えられなかった種類の静寂がある。

スイス人はこの静けさを「自然にそうなっている」とは考えていない。ルールで守っているから存在する——という自覚がある。だから破る人に厳しい。

外国人が最初にすべきこと

引っ越したら、まずアパートのHausordnungを熟読する。洗濯機の使用可能時間、ゴミ出しの曜日、共用部の清掃当番など、生活のルールが細かく書かれている。

知らなかったでは済まされない。逆に言えば、ルールさえ守れば近隣トラブルはほぼ起きない。静けさは双方向の契約だ。

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