ビクトリノックスと軍の文化——全男性に配られるアーミーナイフと民兵制度
スイスの徴兵制では今も全男性に軍用ナイフが支給される。民兵制度・兵役の実態と、在住外国人が帰化後に直面する可能性を解説。
スイスの徴兵制では、男性市民に小銃が貸与される。そして以前は「兵士ナイフ(Soldatenmesser)」も支給されていた。ビクトリノックスの赤いナイフが世界中に広まったのは、この軍用ナイフから始まっている。
現在は軍のナイフ支給は廃止されているが、民兵(Milizarmee)制度はスイスの防衛の根幹として続いている。
民兵制度の仕組み
スイスに常備軍はほとんどない。代わりに18歳以上の男性市民が徴兵訓練を受け、退役後も必要時に召集される仕組みだ。基礎軍事訓練(Rekrutenschule)は18〜21週間で、その後も年間数日の反復訓練が30歳代まで続く。
訓練期間中は給与の一部(80%)が国から補填されるため、企業は兵役中の従業員を解雇できない。これはスイス法律に明記された権利で、外国人でもスイス市民権取得後は同じ義務が生じる。
帰化外国人への影響
日本人がスイス市民権を取得した場合、男性は徴兵義務が発生する可能性がある。ただし取得年齢・健康状態・居住歴などによって実際の召集頻度は大きく異なる。代替として民間奉仕(Zivildienst)を選択することも可能だ。
Cパーミット(定住許可)を持つだけでは徴兵は発生しない。市民権申請時にこの点を考慮する在住外国人もいる。
ビクトリノックスとスイスの関係
ビクトリノックスはシュヴィーツ州(スイス中部)の企業で、1891年に軍への納入から事業を始めた。現在はスイスの輸出商品の象徴で、空港の土産売り場には必ず並んでいる。
スイス在住者の間では「ナイフを買うなら本店かメーカー直売店で」という意見がある。イビカー(Ibach)の本社工場近くのアウトレットや、チューリッヒ中央駅のショップで直接購入できる。
スイス人に「ビクトリノックス、持ってる?」と聞くと、高確率でポケットから取り出してくれる。道具として日常に溶け込んでいる文化が、このナイフの存在感を作っている。