スイスの兵役と代替民間サービス——徴兵制が残る中立国のリアル
スイスは2026年現在も男性に兵役義務を課す数少ないヨーロッパの国だ。兵役期間・代替の民間奉仕制度(Zivildienst)・免除の仕組みと、在住外国人から見た徴兵制の日常を解説。
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永世中立国スイスが徴兵制を維持していると聞くと、矛盾に感じるかもしれない。しかしスイス人にとって軍は「中立を守るための手段」であり、中立と軍備は矛盾しない。2013年の国民投票では徴兵制廃止案が約73%の反対で否決された。
兵役の基本
スイス国籍を持つ男性は19歳で徴兵検査(Rekrutierung)を受ける。基礎訓練(Rekrutenschule/RS)は約18週間。その後、30〜34歳までの間に毎年約3週間の反復訓練(Wiederholungskurs/WK)を合計6回行う。合計の服務日数は約245日になる。
女性は志願制で、同じ条件で入隊できる。近年は女性兵士の割合が増加傾向にあり、全体の約1%程度だ。
代替民間サービス(Zivildienst)
良心的兵役拒否者は、軍の代わりに民間奉仕(Zivildienst)を選べる。2009年以降、宗教的・倫理的理由の証明は不要になり、申請すれば基本的に認められる。
ただし、民間奉仕の期間は兵役の1.5倍。基礎訓練18週間の代わりに27週間の民間奉仕が必要になる。合計日数も約390日と、軍務の約1.5倍だ。
奉仕先は病院・介護施設・学校・農場・環境保護団体・文化施設など。自分で受け入れ先を探して申請する。農家で働くZiviは特にアルプスの山間部で重要な労働力になっている。
免除と代替税
身体的・精神的理由で兵役も民間奉仕も免除された場合、代わりに「兵役代替税(Ersatzabgabe)」を支払う。課税所得の3%で、最低CHF 400(約68,000円)。30歳まで毎年課税される。
つまりスイス人男性は「兵役に行く」「民間奉仕をする」「税金を払う」のいずれかを選ぶことになる。完全な免除はない。
在住外国人に影響はあるか
外国籍の在住者には兵役義務はない。しかしスイス国籍を取得した場合、その時点の年齢によっては兵役対象になる。二重国籍の男性も同様だ。
日常生活で兵役の存在を感じるのは、職場のスイス人同僚が「来月WKだから3週間いない」と言う場面だ。企業は法律で従業員のWK参加を認める義務があり、給与の80%は軍の補償(EO)でカバーされる。
秋にはスイス各地で軍の演習が行われ、装甲車が一般道を走っていたり、ヘリコプターが低空飛行していたりする光景に出くわす。最初は驚くが、スイス人にとっては日常の一部だ。