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全国民分の核シェルターがある国——スイスの民間防衛は過剰か、合理か

スイスには人口を上回る数の核シェルターが存在する。冷戦の遺産が2020年代も維持される理由と、在住者が知っておくべき避難の仕組み。

2026-05-28
シェルター民間防衛安全保障歴史建築

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スイスの人口は約890万人。核シェルターの収容人数は約900万人。つまり全国民分のシェルターが、すでにある。

これは冗談でも都市伝説でもない。1963年に制定された連邦法により、新築の住宅には核シェルター(Schutzraum)の設置が義務づけられた。集合住宅の地下には防爆扉のついたコンクリートの部屋があり、空気フィルター、非常用トイレ、水タンクが設置されている。

普段は何に使われているのか

ほとんどのシェルターは、平時には倉庫、洗濯室、ワインセラー、あるいは楽器の練習室として使われている。チューリッヒのマンションの地下にあるシェルターが、住民のスキー板とクリスマスツリーで埋まっているのは珍しくない。

ただし、法的にはいつでも48時間以内に避難施設として復旧できる状態を維持する義務がある。Gemeinde(自治体)が定期的に検査を行い、防爆扉のパッキン、空気フィルターの状態、収容人数分の備蓄品を確認する。

在住外国人にも適用される

スイスに住民登録している外国人にも、シェルターへの避難権がある。自分が住んでいる建物のシェルターがどこにあるか、管理人(Hauswart)に確認しておくと安心だ。

シェルターが建物内にない場合は、Gemeinde(自治体)が指定する公共シェルターに割り当てられる。この割り当て通知は住民登録時に届くことが多いが、届かない場合はGemeindeに直接問い合わせると教えてもらえる。

過剰に見えて合理的な設計

シェルターの建設・維持コストは建物の建設費に含まれ、家賃にも転嫁されている。新築マンションのシェルター建設費はCHF 1,000〜1,500/人(約170,000〜255,000円)程度とされる。

「核戦争は起きないだろう」という楽観論は、スイスでは通用しない。永世中立国が全国民分のシェルターを持つのは、「戦争に巻き込まれない」という前提ではなく、「巻き込まれても生き残る」という前提で設計されているからだ。

民間防衛の全体像

シェルターは民間防衛(Zivilschutz)の一部にすぎない。スイスには約7万人のZivilschutz要員が登録されており、軍務の代替として民間防衛に従事する。災害時の避難誘導、瓦礫除去、医療支援、通信確保がその役割だ。

毎年Gemeinde単位で訓練が行われ、シェルターの復旧手順も実地で練習する。在住外国人がこの訓練に参加する義務はないが、Gemeindeによっては参加を歓迎するところもある。

2022年以降、ウクライナ侵攻を受けてシェルターの点検・更新を求める声が増えている。連邦政府はシェルターの近代化に追加予算を計上した。冷戦の遺産が「過去の過剰投資」から「先見の明」に再評価されつつある。

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