グリュイエールAOPとスイスチーズの「本物認定」制度
「グリュイエール」は誰でも名乗れる名前ではない。EU・スイスの地理的表示保護(AOPまたはPDO)によって厳格に管理されている。チーズひとつにここまで法律が絡む理由を解説する。
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スイスのスーパーでチーズを買うとき、「Gruyère AOP」というラベルを見かける。AOPとは「原産地名称保護(Appellation d'Origine Protégée)」の略で、フランス語圏スイスで使われる表記だ。
このラベルが意味するのは、そのチーズが特定の地域で、特定の方法で作られたことの保証だ。
グリュイエールが「本物」であるための条件
AOPのグリュイエールは、フリブール(Fribourg)州のグリュイエール地方を中心とした特定地域内で製造される必要がある(出典:Gruyère AOP協会)。
さらに、使用する牛乳は特定の飼育基準を満たした牛から取れたもので、添加物を使わず伝統的な製法で熟成させる必要がある。熟成期間は最低5ヶ月で、「ルーヴル(réserve)」タイプは10ヶ月以上熟成する。
AOP/IGPという欧州の制度
EU(欧州連合)では「地理的表示保護制度」として、PDO(Protected Designation of Origin、原産地名称保護)とPGI(Protected Geographical Indication、地理的表示保護)が存在する(出典:欧州委員会)。スイスはEU非加盟だが、独自のAOP/IGP制度を持ち、EUとの相互承認協定がある。
日本では「シャンパン」「バルサミコ」「パルミジャーノ・レジャーノ」などが地理的表示保護の対象として知られる。スイスチーズでは、グリュイエール、エメンタール(AOP)、アッペンツェラー(非AOP)などがある。
名前の混乱問題
「グリュイエール」という名前は、歴史的に様々な国で似たチーズに使われてきた。フランスでもコンテ(Comté)など類似のチーズがあり、アメリカ産の「Swiss Cheese」と呼ばれる製品もある。
2021年、米国法廷でグリュイエールの名称保護をめぐる訴訟があり、「グリュイエールはスイス・フランス以外の生産者も使える普通名称になった」という判決が出たケースもある(出典:米国連邦地裁判決2021年)。「本物」を守る戦いは法廷でも続いている。
スイスチーズと日常生活
在住日本人のスイス生活でチーズは日常的な食材になる。スーパーにはAOPグリュイエール、エメンタール、アッペンツェラー、ラクレット用チーズなどが並ぶ。日本のとろけるスライスチーズとは別次元の風味がある。
100g換算で2〜4CHF(約360〜710円)程度(推定)と日本のスーパーより高いが、スイスの食生活に組み込むとコスト感も変わってくる。
「チーズに法律がある国」というのが、スイスの食文化へのアクセスキーの一つかもしれない。